第4話 山田春人と高冬真友の新たな始まり③



〜山田春人〜


真友と七瀬さんが買い物に行っている頃、俺は、恵美さんにキッチン周りの説明を受けていた。


「ここに調味料があってここに鍋とかが入ってるから」


「おお、すごい量の調味料だね。見たことないやつもある」


すごい。

俺が唯一好きだといえるのは料理だ。

そんな俺がこの量の調味料を見ると流石にテンションが上がる。


「私の父さんが色々なところに行っては買ってくるのよ。カメラマンなの」


「へぇ。カメラマンなんだ。あっ、だから今家にいないんだね」


「そうよ。月に一回帰ってくるくらいだから。私が昔引っ越したのも父さんがカメラマンになったから。まあ、あんたは私が転校したの覚えてないっぽいけど」


「ご、ごめんね。言い訳になっちゃうけど、小学生低学年の話でしょ?さすがに忘れてしまうよ」


「高冬が覚えてるのがなんかムカつくのよねぇ。あんなチャラチャラしたやつが記憶力いいとかある?」


うーん、恵美そんは本当に真友を目の敵にしてるよなぁ。なんでだろう?


「真友は昔から記憶力良かったな。俺は記憶力ない方だから色々助かったよ」


課題の提出を忘れてたときに教えてくれたりしたな。まあその後課題見せてけれとか言ってきたけどね。


「ふーん。もうあいつの話はいいわよ。キッチン周りで他に聞きたいことある?」


自分でしてきたのに……。


「そうだなぁ。あ、料理当番があるってことはみんな料理上手いの?」


「そうね。みんな人並みにはできるわ。京夏は少し下手だけど。言っちゃダメよ?」


恵美さんが少し笑いながら言ってきた。

これは仲良くなれてる……よね?

それなら良いんだけど。


「はは、言わないよ。ああそうだ……」


ガララ……


「あっ!帰ってきたわね、槍彦。全く、もう少し早く帰ってくるようにいわれてたはずなのに」


ん?槍彦?誰だろう。


「ついてきて。私の弟を紹介するわ」



「ちょっと槍彦!二階に行かずリビング来なさい!」


恵美さんがそう呼びかけると、足音をだんだん立てて不機嫌そうな顔で1人の男の子が来た。

身長は156センチくらいの黒髪で結構髪が長い。

無愛想な顔をしているけど整った顔をしてると思う。


「ああ、そういえば今日だっけ新しい奴が来るのって。槍彦。よろしく」


俺と目も合わせようとせずにそれだけ言ってそそくさと二階に上がってしまった。

いや、俺の自己紹介してないんだけど……。


「悪いわね。見ての通りあいつ、絶賛反抗期でね、ちょっと前までは可愛いやつだったのよ。最近になってああなっちゃったの。でも、本当はいいやつだから嫌わずに接して欲しい」


反抗期か……俺は……いや、思い出すのはやめだ。


「大丈夫だよ。実の姉の恵美さんがいいやつって言うんだから、いい子なんだろうなって思うよ。これからしっかり仲良くなれたらいいな」


反抗期の人にどうやって接するのが正解なのかわからないけど、頑張ってみよう。


「そうしてくれると助かるわ。それにしてもあんた本当に背が高いわね」


「うーん、本当にいきなり伸び出したからね。身長に関しては色々諸説あるけどどれが正しいかわからないからね。俺もなんでこんなに伸びたのか分からないよ。まあ真友には嫉妬され続けてるけどね」


「てゆうかその高冬と七瀬を二人にしたのが心配なんだけど。早く帰ってこないかしら。あいつ何するかわからないし」


と、恵美さんは日向さんを心配している。


「さすがに真友でも何しないよ。逆に何かしたら何十年も一緒に過ごしてきた俺でさえドン引きするね」


遭って初日になにかしたら俺でも引いてしまう。


「むしろあいつのことだから仲良くなって帰ってくるかもしれない」


昔からすぐに友達をたくさん作っていたコミュ力モンスターだったから。


「あーそれはあるかも。あの嫌ーな馴れ馴れしさなら」


そんな話をしている時。


「おーい春人ーこれからウチが掃除当番の説明するからこっちきてー」


と、久留未さんがキッチンに俺を呼びきた。


「あ、はーい。今いくよ。恵美さんありがとうね」


恵美さんにお礼をいい久留未さんについていく。



「どう?恵美とは仲良くなれたー?」


そう笑顔で久留未さんが聞いてくる


「うん。少しはなれたとおれはおもってるよ。家族想いの少し口が悪い人って印象かな」


素直な感想を述べる。


「あはは!だいたい正解!でも、口が悪いってのは本人の前で言うと怒るからNOね……ここ!ここに掃除用具一式があるから」


と、一階の真ん中あたりに置かれている大きなクローゼットがある場所へ連れてこられた。

開けられたクローゼットの中には掃除機や除菌シート、クイックんワイパーなど様々な掃除用具が収納されている。


「あ、ちなみにこっから先は女子エリアね。」


そう自分たちが立っている場所の先を指差して告げた。


「掃除とかの関係で入っちゃダメとかはないけど、何かしらのハプニングが起きる可能性もあるから気をつけてねー。手を出される可能性もあるから!あ、部屋に勝手に入るのは論外だからねー」


そう悪い笑みを浮かべながら、忠告してくれた。

怖い。


「手が出てくるとか、怖くてエリアに入りづらいよ……」


素直に恐怖を口にすると。


「だめだめ!結局掃除当番がきたら入らなきゃダメなんだから!ふふ……今から楽しみだなぁ」


最後に小声で何かつぶやいていたが聞こえなかった。なぜか俺は少し身震いした。

ガララ……と、身震いした瞬間戸が開く音がした。

すると。

「ただいまぁかえりましたよ!っと!」


一人の男の馬鹿でかい声が響いた。

真友たちが帰ってきたのだろう。


「うわぁお。ウチに引けを取らないいでかい声だねー」


久留未さんが真友の声を賞賛する。


「でしょ。真友のでかい声は昔から変わらないなぁ」


「おーい。誰も迎えにきてくれないのかー?」


「……とりあえず迎えに行こうかー」


俺たちは笑いながら真友たちを迎えに玄関に向かう。


「はぁ〜い。お帰りなさ〜い。寂しがり屋さん!」


久留未さんがからかうように言う。


「おう。俺は誰か迎えにきてくれないと泣いちゃうから気をつけろよ!」


「そんな繊細だったっけ?真友は」


俺はわかりきっている疑問を口にする。


「おいおい!俺の大親友は俺のことなんでも知ってるはずだろ?まあいいや、とりあえずリストにあったやつ買ってきたから、運んでくれ」


と、パンパンに入ったレジ袋を5つ置いた。

「ちょっとあんた。結構な荷物だけど、七瀬にばっか持たせてないでしょうね?それと七瀬に何もしてないでしょうね?」


姿を見せるやすぐに真友にあらぬ疑いをかけようとする恵美さん。

そんな恵美さんに日向さんは。

「恵美の変な方向の心配事なら大丈夫だよ。今回の買い物は楽しかったし、なんならレジ袋4つも持ってくれたんだから」


へえ。そんなに持ったのか真友。すごいじゃないか……


「ん?あはは!真友手ぇ震えとる!笑えるわ〜!」


そう。真友は力がないのだ。当然無理してたに決まってる。


「おい!やめろよ!格好つかねぇじゃねぇか!あ、いや別にカッコつけようとしたわけじゃねぇけど」


もう遅いぞ、真友。


「とりあえずご苦労様。じゃあウチと恵美と春人が運ぶから、真友は七瀬に当番とかの説明受けといてね。七瀬よろしく」


「ええ。わかったわ。じゃあ真友くん、居間に移動しましょう。休憩がてら説明するから」


「はいはーい。じゃあキャリーよろしく!」


そう一言イラッとくる言葉を添えて居間へと七瀬さんと向かっていった真友。


「うざっ。わざわざ英語にして言ってくるとか…むしろさすがのウザさね」


案の定恵美さんが反応した。


「じゃあさっさとキャリーしちゃいますかー」


久留未さんが真友の真似をしてレジ袋を運び始めた。


「はあ。先が思いやられるわ……」


疲れた顔をしながら恵美さんが久留未さんに続く。



うーん。恵美さんと真友の関係は改善していきたいな。


そう胸に誓った俺もレジ袋を運び始める。



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