第5話 山田春人と高冬真友の新たな始まり④
〜山田春人〜
「はぃぃぃぃ!?」
そんな真友の驚いた声が響き渡る出合荘。
今は初めての夜ご飯中。
ここでのご飯は基本的には、居間で食べるようだ。
今は全入居者が揃っている。
そして、真友が驚いていることとは……。
「俺達の入る学校が決まっただってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
らしい。
「「うるさい!!!」」
恵美さん、久留未さんに怒られる真友……。
「だ、だってよぉ、流石にビビるだろ。そんな早くに決まっていたら!」
なんでも、今日の夕方くらいには理香さんが話をつけてくれていたらしい。
俺たちはどれだけこの人のお世話になればいいんだ……
絶対恩返しする。
またもや俺は胸に誓う。
「恵美達も入学する予定の学校なんだけどね、そこの学長と少し縁があって。事情を話したら快くOKしてくれたわ。まあ、そこのところは割と適当な人だからOKしてくれるとは思っていたんだけどね」
そこのところが適当な人とは……。
でもそんな学長だからこそ俺たちは入学が決まった。感謝しなきゃ。
「あ、わかりましたよ俺。何かのテストの被験体になるんでしょ!?高度な勉強法や運動をやらせて、スーパーマンにさせるみたいな!いやぁ、それもそれで楽しそうだなぁ!?」
真友が1人でめちゃめちゃ盛り上がってる。
気づけ真友。みんなが変な目で見てるよ……
「あんた何1人で盛り上がってんのよ。普通に引くわー」
「うん」
恵美さんの素直な感想に京夏さんも賛同する。
「なあ真友。さすがに勘ぐりすぎだろ。学長がいい人ってことだろ。むしろ勘ぐりすぎたら失礼だよ」
「いやぁだってなぁ!?うまい話には裏があるってよく聞くだろう!むしろ俺の慎重さは賞賛に値すると思うぞ」
「うんうん。真友のそのアホみたいな慎重さは面白いね」
「いや久留未。俺は面白要素は求めてないよ今は!普段だったら面白いって評価されたら嬉しいけど!」
うーん。どこにいっても真友は真友だなぁ。
いつも通りやかましいくらいにうるさい。
でも俺はこのやかましさに何度も助けられてるから、怒るに怒れないんだよなぁ。
でも初めて会ったばかりの人からしたらちょっとね……。
「はぁ。本当やかましいわね。母さん、早くこいつに現実を突きつけてあげて」
恵美さんが理香さんに説明を促す。
「ええ。春人くんと真友くんにはとあることをしてもらうことになってるから」
「ほらね。何もな…」「ほら。勘ぐりす…ぎ」
「「んん??」」
あれ、聞き間違いかな?
「ほらぁ!あるじゃん!?実験!うぉぉまじか!?」
真友が興奮している。どうやら聞き間違いではなかったらしい。
え?嘘?
「え、母さん?それ本当?そんなことってあるの?」
恵美さんもさすがに戸惑っている。
それもそうだ。
俺も戸惑ってるし、見れば京夏さんや久留美さんも驚いている。
「ええ。あなたたちに参加してもらうのは地域ボランティアよ。どんな感じになるかは私も詳しくは分からないから頑張ってね」
「地域ボランティア?まさか、地域一帯で実験しているとは…凄いところに来てしまったみたいだぞ春人」
真友がやけにシリアスな顔をして俺に言ってくる。
うーん、地域ボランティアかぁ。
俺はもうちょっと優しい感じな気がしてるんだけど。そんな実験なんて……ね?
「まあ、地域ボランティアの種類はいくつかあるからそこから選んでもらうのだけれど、それは入学してからだから今ここでは考えなくていいわ」
「なっ!そんな色々な種類の実験をしているのか…あれ?いくつかあるってことは俺達の以外にも被験者がいたりします?」
確かに。
いくつかあるってことは少なくとも3種類以上はあると考えていい。
ということは俺達の以外にもボランティアに参加する人はいないとは限らない。
「ええ。察しがいいわね。別に春人くんと真友が特別なわけじゃなくて、他にもボランティア参加が条件で滑り込み入学している人がいるのよ。だからあなた達もOKされたってわけね」
「なるほど。そーゆうことでしたか。了解です!楽しみにしときます!とりあえず、話つけてくれてありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
真友と一緒に理香さんに頭を下げ感謝を伝える。
「いえいえ。これから3年間、高校生活を楽しんでください」
ああ、どんな高校生活になるんだろう。
今から楽しみで仕方ない。
見れば真友もウズウズした様子だ。
と、ここで真友が新しい話を切り出した。
「はい!そこで黙々とご飯を食べているきみ!はじめましてだよね?お互い自己紹介しようよー」
そう言って今まで一言も発さずにご飯を食べていた槍彦くんに話かける真友。
しかし槍彦くんは言葉を返さない。
「おーい。寝ながら食べてますかー?俺は高冬真友って言うんだけどきみは?俺の予想だと誰かの弟だと思うんだけど。どうかな?」
そう言って恵美さんをチラ見する真友。
気づいているのか。
確かに言われてみれば、さっき俺が会った時はじっくり見ることは出来なかったから気づかなかったけど、恵美さんに結構似てる気がする。
「はあ。槍彦、自己紹介だけでもしておきなさい。ほら!」
真友に気づかれたのが気に障ったのか、ため息をつきながら恵美さんが自己紹介を促す。
「はあ。出合槍彦。あんたの予想通り出合恵美の弟だよ」
恵美さんと全く同じため息をつきながら最低限の自己紹介をして再びご飯を食べ始める槍彦くん。
「槍彦か!これから男同士仲良くしようぜぇ。てかこのご飯うめぇな。誰が作ったんだ?」
槍彦くんとの自己紹介を終えた真友が次々と話を続ける。
料理は俺が作った。美味しいと言ってもらえて嬉しい。ただ、俺だけが作ったわけではない。
もう1人の料理を作った人はと言うと…
「あたしと山田春人よ。ちなみにどれが美味しいの?」
恵美さんだ。
「おお、春人と恵美ちゃんか。そうだなぁ、全部美味いけど一番を決めるならこれかな」
真友が選んだのは恵美さんが作った料理だ。
「ふーん。あっそ」
自分で聞いておいて興味を示さない恵美さん。
なんてことはなく、少しニヤつきながら俺の方を見てる。悔しいな。
恵美さんはどうやら負けず嫌いっぽい。
「まあ全部美味いから、これから食事は飽きなさそうだな!嬉しい限りだよ!」
真友が喜びを露わにする。
「あれ?全員が料理上手いと思ってなーい?痛い目見るかもねぇ」
そんな真友に、久留美さんが京夏さんをみながらニヤニヤした顔で釘をさす。
「え?なになに?そんなこと言われたら勘ぐっちゃうぞ?まあそれはそれとして…」
真友が急に真面目な顔になった。
「俺、食べるの遅いっすか?待たせちゃってます?別にいいですよ先に食べ終えてしまっても」
そんなことを言って来た。
たしかに、実はもう真友以外全員ご飯を食べ終わっている。
それでも皆んなまだごちそうさまをしないのは…。
「この家では全員ご飯食べ終わるまで待つことになってるの。てゆうかあんたずっと喋ってるから遅いんでしょ?一回黙って食べることに集中したら?」
やっぱりそうゆうルールがあるのか。
「そんなルールがあったんだ!?オッケーオッケー。なるべく早く食べるよ。ちょ、待っててくれよ」
と、とあるショニーズの真似を挟みながらご飯をかき込み始める真友。
「おい真友。そんなにかきこむと…」
「ングッ!?」
真友が箸を止め、飲み物を流し込む。
「ほら。言わんこっちゃ無い…。テンプレをきっちりこなすなよな…」
呆れる俺。見れば恵美さんと槍彦くんも呆れている。
「はぁ〜。危なかったぜー」
真友が一息つく。と、そんな中…
「フフッ」
小さな笑い声が響いた。
響いたっていうのは言い過ぎたけどまあ、ここにいる全員に聞こえるくらいには響いた。
「本当バカね。フフッ」
そう。京夏さんだ。
今まで一言も喋らなかった京夏さんが笑ったのだ。
いまだにツボっている。
「すごいよ!真チャーム!会って初日で京夏を笑わせるなんて!才能あるぅ〜」
真チャーム??まあそこは置いといて、久留未さんが驚いた声で真友を称賛する。
「まてまて、俺のあだ名変わってね?まあ真チャームって俺がチャーミング!みたいな感じで気分良いからいいけども!」
「いや、適当に言っただけだから。君のことチャーミングなんてこれっぽっちも思わん」
「え〜!?まあ初日だから仕方ないか。それより京夏ちゃんが笑ってくれて嬉しいよ」
「私たちですら京夏の笑うツボは分からないからねぇ。教えてもくれないし」
「教えたらあなたたちいじるでしょ。だから一生教えないわ」
やっと笑いから解放された京夏さんが久留未さんたちにそう告げる。
「お。よくわかってらっしゃる!そうか〜、じゃあ自分で見つけるしか無いね〜」
本当にいじるつもりだったんだ…。
「てゆうか、高冬!バカばっかりしてないで早く食べてよ!」
恵美さんが真友に怒鳴ったその時。
「じゃーーん!!そう言われると思って終わらせておきましたよーだ」
真友は渾身の変顔で食べ終わっていたことを報告する。
うざい……これはうざい。
さすがにウザかったのか、恵美さんの顔に怒りのマークが見えるよ!
「クッ……。はいおわり!ごちそうさま!!」
怒りを抑えた恵美さんが音頭を取る。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「よく耐えたね〜」
食器を片付けるために立つと同時に久留未さんが恵美さんをなだめる。
「これからあれと付き合っていくとなると先が怖いわよ…」
恵美さんは先が不安なようだ。
でも、真友を良く知ってる俺からしたら、真友と恵美さんの仲が改善される未来は必ず来る。
真友の親友の俺は断言できるよ。
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