第2話 山田春人と高冬真友の新たな始まり①



3月25日


〜山田春人〜


俺と真友は荷物をまとめて、出合さんが管理している壮に向かっていた。


「いよいよきたな!俺たちの新たな始まりが!!」


真友がとても高いテンションで言ってきた。


「テンション高すぎでしょ。まあ、テンション上がるのもわかるけどさ」


というか、出合さんにお世話になれるという話を聞いてから真友はずっとテンションが高い。


「だってよぉ、悩んでたところにいきなり救いの手がきたんだぞ?アニメみたいじゃねぇか。こんな展開にオレがテンション上がらないはずないだろう?」


「まあ、真友はそんなやつだよな。それにしても壮ってどんな感じなんだろう。さっぱりわからないや」


「うーん、アニメと一緒なら、横長にでかい家で大人数が暮らせる場所?って感じだな。それも全員が家族じゃなくて、オレらみたいに訳があって壮で暮らしてる人もいるはず」


「へぇ。テスターハウス?」


「そこに管理人だったり、管理人の家族が加わるっていう解釈でいいと思うぞ」


「なるほどねぇ。早く同居人と仲良くなれたらいいな」


実際、仲良くなれるかはあまり不安ではない。

真友がコミュ力が高すぎてすぐに仲良くなれるはずだ。

今までもそうだった。頼りきりなのはどうかと思うが、その代わりに俺が別の場所で真友を助けられるように努力している。


「まあこれから少なくとも3年は一緒に暮らすんだから嫌でも仲良くなるべ。それより、可愛い女の子いないか楽しみだな?」


「真友ってオタクでしょ?偏見になっちゃうけど、2次元にしか興味ないんじゃないの?」


「ふふん。たしかに2次元にしか興味のないオタクもいるが、オレは3次元の女の子にもばりばりに興味のあるオタクだ。それで?春人だってたのしみだろ?」


「いやまあ、たしかにどんな人達かなぁって気になりはするけど」


これは本心だ。

「ふーん。お前は昔からそんなだったなぁ」


真友が意味ありげな顔で呟いた。どうゆうことだろう。



「なあ、オレら結構歩いたよな?まだ着かないの

か?」


「やばい。迷ったかもしれない。初めて来たところだから、土地勘がわからない」


言い訳にしかならないが、本当のことだ。全くわからない。


「ったく。お前に任せたオレがバカだったよ。地図貸して」


真友が呆れた顔して地図を奪って来た。


「…ほうほう」


「どう?わかる?」


真友もこの辺は初めてだろう。わかったらすごい。


「わかった」


「本当?すごいな」


「いや、わからないことがわかった」


「期待しちゃったじゃん…」


「いやー、やべーな。どうするか」


本当にどうしよう。警察署に行って道を聞く?うん。それだ。それがいい。


「真友、警察署に行こう。そこで道を聞けばいけるはず」


「そうだなぁ。そうするか。んじゃ警察目指してレッツゴー」


「いや待って。一番近い警察署中々遠いんだけど。どうする?」


「まじ?最悪じゃねぇか。てか、住所とか教えてもらってねぇの?住所さえあればいけるんじゃん」


「あ…忘れてた」


「おいおーい、しっかりしろよー。聞くの忘れた春人もだけど、その理香さんも少し抜けてるんじゃね?」


真友が苦笑いしながら愚痴をこぼしたその時。


「ちょっとあんた。いきなり人の親をバカにするなんていい度胸してるじゃない。殴るわよ?」


いきなり後ろから女の人に声をかけられた。


「ん?初対面で初めて交わした言葉が殴るわよ♡なんていう人も中々だと思うなー」


「はあ?そんな言い方してないし。あんたよくそうやって人がムカつく言葉を吐けるわね。まず、初対面でも無いしね」


え?初対面じゃない?真友は知り合いなのだろうか。少なくとも俺は知らない。


「初対面じゃない?人違いなんじゃない

の?」


「記憶力ないのねー。まあそんな顔してるし

別にいいけどね」


「じゃあいつ会ったことあるんだ?言われないと分からんわ」


「もういいわよ。そっちのあんたは?覚えてないの?」


いきなり話を振られた。


「あ、えっと、俺も会ったことあるの?ごめん、覚えてないや」


嘘をつくのもあれなので本当のことを言った。


「あんたも覚えてないの?2人揃ってバカな2人ね」


呆れた顔をされた。すると、真友が前のめりになって告げた。


「嘘だよ。出合恵美さん。小学校1、2年の時に同じ学校だったな。2年が終わって引っ越した」


「!!あんた、なんで嘘ついたの!?バカにしてるの!?」


顔を赤くして怒り、真友に近づく。下手をすれば手が出そうだ。


「まあまあ、そう怒るなって。会話を弾ませるためのユーモアだよ。ユーモア」


「全く面白くない。せっかく迷ってるあんた達を案内しようとしたけど、ムカつくからやめる」


それは困る!どうにかしないと。


「ごめんない!えーと、出合恵美さん?真友はこうゆうやつなので。ほら、真友も謝れよ」


「ごめんなさーい」


すごい軽いごめんなさいだ。こんなので許してもらえないと思ったので、俺は深々と頭を下げた。


「おい春人、そこまでしなくっていいって。なあ、恵美ちゃん?」


「ちょっと、いきなり名前呼びしないで。馴れ馴れしい」


「いやー、これから一緒に暮らすことになるんだからよくね?」


「うっ。だ、だけど壮に着けなかったら意味ないわよ?」


「そのために恵美ちゃんがきてくれたんでしょ?」


「………。着いてきて。山田春人だけね」


「だってよ、春人良かったな」


え?真友は何を言ってるんだろうか。そう思った時、アイコンタクトしてきた。これは多分「大丈夫だ」と伝えたいのだろう。


「わかりました。お願いします恵美さん」


「……こっちよ。あんたは着いてこないでね!」


真友を指差して恵美さんは言った。


「へいへーい」


真友を置いて、俺と恵美さんは歩き出した。



歩き出して、最初の角曲がったところで恵美さんが口を開いた。


「ねえ、高冬真友はずっとあんな感じなの?もう嫌いになりそうなんだけど」


確かに、真友は少しふざけた奴に見えるかもしれない。とゆうか見えるね。うん。

でも俺は知っている。真友のいいところを。

いま恵美さんに言っても絶対信じてくれないから言わないけれど。

だからこれから知っていって欲しいと思う。


「小学生の時からあんな感じだよ。でもいいところもたくさんあるから、これから一緒に過ごすうちに知っていって欲しいな」


「どうだか。一つもいいところがなさそうにしか見えないわ」


「まあまあこれからだよ。これから俺のことも知っていって欲しいし、恵美さんのことも知っていきたいと思ってる」


「ふーん…まあ、知りたくなくても知っちゃうでしょうね」


確かにそうだ。一緒に過ごすのだから。


「それも含めてこれからが楽しみだよ。すごく」


心からそう思う。

これから俺たちはどんな人間と出会い、どんな事をして、どんな事を思うのだろう。

そんな事を考えながらもう少し歩いたところで恵美さんが前に出た。


「着いたわ。ここよ。ここが私達が住んでいる出合荘よ」


おお。なかなかでかい。それに綺麗だ。

どのくらいかというと、普通のコンビニ二個分くらいだろうか?例えが難しいが、そのくらいだと思って欲しい。


「ありがとう、恵美さん。俺だけじゃ辿り着けなかったかもしれない」


そう、ここにくるまでが意外と入り組んでいたのだ。正直のところ、今歩いてきた道を俺はほとんど覚えていない。


「礼ならお母さんに言って、お母さんが迷ってるだろうから探しに行ってあげてって言ってくれたんだから」


「そうだったんだ。もちろん後でお礼を言うよ」


ブルルルル…ん?



「ただいまー」


恵美さんが玄関を開けて、中に入る。


「お邪魔します」


「ちょっと春人君。お邪魔しますじゃないでしょ?」


理香さんが出迎えてくれた。


「ここに来るのは初めてなので他に言葉が見つかりませんよ」


ただいま。と言うのはおかしいし、失礼しますはお邪魔しますと同じだ。ほかになるかあるだろうか。


「うーん。それもそうね。あら?真友君は?一緒じゃないの?」


「あー、それは…」


「舐めた態度とってきたから置いてきたわ」


恵美さんが即答した。他にもっと言い方あったんじゃないか?


「全く。恵美ったら。すぐそうやって…仕方ないわ。私が探して案内してくるわね」


「ちょっと母さん!そんなことしなくていいわよ!舐めた態度とったあいつが悪いんだから」


うーん。そこまで嫌う必要があるだろうか?まあ、このままだと理香さんが探しに行ってしまうので、そろそろ言おう。


「あの、理香さん…」


と、その時。


「うーす。高冬真友遅れて到着!!!」


「なっ!」


きた。


「なんであんたがここにいるのよ!道は分からなかったはずでしょ?もしかして、また嘘をついたの!?最低!」


恵美さんが真友に近づき責める。


「違う違ーう。本当に道は分からなかったよ。それでも俺が来れたのは…春人だ」


真友が俺を指さす。

そう。さっきここに到着した時に真友からメールが来たんだ。そこで、壮の住所を教えてくれと書かれていたので、玄関の横に書いてあった住所を玄関が開くのを待ってる時に送ったんだ。


「山田春人!?あなた何をしたの!?」


恵美さんが俺に顔を向け、怒鳴ってくる。うーん、ただ住所を教えただけなんだけど。


「簡単なことだよ。春人に壮の住所を教えてもらっただけだよ。そんなに怒るなって」


「怒るのは当然でしょ!あんたの印象な最悪でイラついてるんだから!」


「いやーだから悪かったって。ほら、謝るから」


真友がこんどはしっかりと頭を下げた。


「ほら、恵美。真友くんも謝罪してくれてるんだから、もう許してあげなよ」


理香さんが恵美さんをたしなめる。


「まあ、今回はお母さんに免じて許してあげるわよ」

恵美さんが口を少し膨らませて言う。


「優しいねぇー恵美ちゃん」


真友…それは…


「うるさい!やっぱムカつく!」


ほら…怒って家の奥に行ってしまった。


「もう…恵美ったら、すぐ怒るんだから」


理香さんが少し困った顔でそう言う。


「いえいえ、今回は真友が悪いですよ」


「まあ、たしかに少しからかいすぎたか。反省反省」


しっかり真友も認めてくれた。これだから真友は嫌いにならない。まあ、なるわけないんだけど。

「じゃあ2人とも来てくれたみたいだから早速みんなで自己紹介でもしましょうか」


理香さんが提案して来た。


「いいですね!やりましょう!自己紹介!」


真友が待ってました!と言わんばかりの顔でそう言う。


「じゃあついてきて。居間に案内するわ」





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