持ち出し禁止のアイテム

「これは、どう捉えるかですよね」

『どう捉えるか、というと?』


 シュウさんが不思議そうな声で聞き返してくる。


「ただのオマケ要素と判断するべきか、それ以外の重要な意味を持つと考えるべきか、ということです」


 ゲームには、ゲーム進行に必要なキーアイテムと、いわゆる「お楽しみ要素」とされる、収集アイテムがある。収集アイテムは、別に集めなくてもストーリーは進むが、全部集めたり、特定の数を集めるといいことがあったりもする。


「キーアイテムととらえるべきか、それとも『お楽しみ要素』と考えるべきか……」

『敵の動きが変わっていないということは、もしかしたらキーアイテムではないのかもな』


 確かに。他のゲームでも、キーアイテムではないものを手に入れたって、何も起こらない。ゲーム進行に関係するキーアイテムや、ゲーム進行を楽にするアイテムを手に入れたときにだけ、イベントが起きたり、敵が増えたりする。


「その可能性はありそうですね。とはいえ……」


 その割には、とても重要な内容な気がする。


『……持って行った方がいいんじゃないか。お楽しみ要素だとすれば、全部集めるのも醍醐味だろう?』

「いや、駄目だと思います。持ち出し禁止って書いてありましたから」

『……まさか、持ち出すと何かが起きるということか』

「一応、ルールには従っておきたいタイプなので」


 私の言葉に、シュウさんは言う。


『……いや、その方が賢明だろうな。何が起きるか分からない』

「ただ、内容は気になっているんです。とはいえ、本体をそのまま持っていくことはできませんし、何か方法があればと思って……」


 そう思って、書類の束を見る。これを書き写すとなると、手書きだと時間がかかりすぎる。それ以外の方法となると……。


「シュウさん」

『……なんとなく、分かったぞ』


 さすがシュウさん、話が早い。


「ちなみに、シュウさんは今、どんな端末で映像と音を拾ってるんですか」

『パソコンからだ。映像は、パソコンのディスプレイに映っていて、そちらの音とこちらとの通話は、自前のヘッドセットを接続してやっている』


 自室でヘットセットをセットしながら、作業をしているシュウさんの姿が目に浮かぶね。


「それではシュウさん、これから一枚ずつ私が書類を写します。シュウさんはそれを、スクリーンショットか、スマートフォンのカメラで撮影して頂き、文字を起こしておいて頂けますか」

『……任せろ。単純作業なら得意だ』


 シュウさんが鼻を鳴らす。これで、持ち出し禁止の資料を持ち出さなくても、なんとかなりそうだね。






 




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