シュウカさん

「お忙しいところ、失礼します」


 そっと部屋の中に入る。部屋の中には、一人の女性がいた。その女性もまた、どこかで会ったことがあるような顔立ちだった。どこで会ったっけな……。


 私が首をかしげていると、向こうがはっとした顔をした。


「あ、もしかしてサランさんっ!?」

「あ、ハイ……」


 私がたぶん戸惑った顔をしていたんだろう、シュリカさんは、私の両手をつかんでぶんぶん振る。


「アタシですよアタシ! 会社でお会いした受付嬢です!」

「あ……」


 そう言われて思い出した。田尻課長と面接したときに会った、受付嬢さんだ。


「あの時名乗っていませんでしたね。改めまして、初めまして。月島秋華と言います」

「ツキシマシュウカさん……」


 そう、口に出してみて、ふと気づくことがある。


「月島!?」

『……シュウカも性格が悪いな。そいつは、俺の妹だ』


 ……いもうと? イモウト? いもうと、という単語が頭の中で反響する。数十秒後、唐突にシュウカさんとシュウさんの関係が、頭の中で理解できた。


「シュウカさんとシュウさんは、家族で、シュウカさんはシュウさんの妹!?」

『……。だからさっき、そう言ったつもりだったが……』


 シュウさんの声に少しだけ、呆れの色が浮かんでいる。


「すみません。完全に、シュウカさんのことを、シュウさんの彼女さんだと思ってました」


 私の言葉に、シュウカさんは首をぶんぶんと横に振った。


「ないですないです。こんなめんどくさい人、こっちから願い下げです」

『心配するな、シュウカ。俺からも願い下げだ』


 そう言い合ってるけど、仲いいなぁ。これが兄妹かぁ。一人っ子の私には、縁遠い世界だったんだなぁ。


「話がそれました。わざわざここまで来たってことは何かしら用事があったんですよね?」


 シュウカさんの言葉に、私とずんだ餅さんは頷く。


「ええ、まぁ」

『シュウカ、お前の周りでつい数十分前、おかしな現象が起きなかったか』

「いや? 特には」


 何かありましたっけ、ときょとんとした顔でこちらを見つめてくるシュウカさん。これはもしかして、シュウさんが言う通り……。


『……ホラな、予想通りだ。コイツは、何か起こっていたことにすら、気付いていない』


 シュウさんがどこか勝ち誇ったような声で言う。


「何よ! 悪かったね、情報とか、周りの空気を読むのがへたくそで! 前からだから、ほっといてよね!! 兄ちゃんの性悪! 意気地なし!」

『……意味わかって言ってないな……』


 向こう側で、シュウさんが頭を抱えてるのが目に浮かぶ。


『今から、こちらで分かる範囲の情報を伝える。そのうえで、シュウカ、お前はサランさんたちに力を貸してほしい』

「ほぇ?」


 シュウカさんの気の抜けた声が、部屋にこだました。

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