気づきたくないことに気づく
「アタシが協力しなくたって、兄ちゃんが協力してあげればいいじゃん」
シュウカさんの言葉に、シュウさんが大きなため息をつく音が聞こえた。
『……そうできるなら、とっくにやっている』
「え、なんで。どうせ兄ちゃん、夜は暇なくせに」
きょとんとしているシュウカさんに、シュウさんが再び大きなため息。
『……人を暇人扱いするな。そっちに行けない事情があるんだ』
「事情って何よ」
頬を風船みたいにふくらませるシュウカさん。
『……そっちの世界にログインできないんだ。おそらく、今からでもログインできる人間とできない人間がいて、そっちに今行こうと思ったら、何かしらの条件があるんだと思う』
「はい? ログインできないってどういうことよ。アタシやサランさんたちは今、この世界に……」
そこで言葉を切ったシュウカさんに声をかける。
「私たちのようにこの場に取り残された人もいますが、同じ時刻にログインしていて、強制ログアウトさせられた人もいるようです。シュウさん、強制ログアウト者さんが出た後から、ログインできた人がいるという情報があるんですか」
『ああ。こちらの社員で、そういった人間がいたようだと社内メールが出回ってる。むろん、百パーセント信じていいかどうかは微妙なラインだが』
強制ログアウトさせられた人とそうでなく、この世界に留まり続けられている人。また、強制ログアウト者さんが出た後なのに、その後の時間帯にログインを試みて、実際ログインできた人もいる。
やっぱり、ゲームシステム上、プレイヤーの何かしらの条件を元に、ログインできる人とそうでない人の条件を定めている可能性が高そうだよね。
「ええ!? それって、ここにいるプレイヤーさんたちは、自分たちの好きなときにログアウトできないってこと!? じゃあアタシ、推し活できないじゃん!!!」
途方もなく、斜め上の返答が返ってきて、ずんだ餅さんと私は思わず顔を見合わせた。シュウさんの声が聞こえた。
『……すまない。コイツは、いつでも予想の斜め上を行く。悪気はないから多めに見てやってほしい』
「え、あ、ごめんなさい。アタシ、また空気の読めない発言しちゃった?」
シュウカさんがしゅんとした顔をする。
「ううん。大したことないよ。つまりは、このゲームから出られなくなったら、シュウカさんも困るってことだよね」
私の言葉に、シュウカさんは大きく頷く。
「はい。理由はともあれ、この場所にずーっといることになるのは困ります」
「私の中で今、一番悩んでいるのは、無断欠勤になるかもしれないことです」
この状態がいつまで続くか分からない。頭の中では金本部長の顔がちらつく。無断欠勤、しかもそれが数日続こうものなら、次にどんな顔をしてあの人に会えばいいのか分からない。
そもそも、他の人にも迷惑がかかる。どうしよう。
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