行動開始

協力者その1を探して

「ええ……、こんなところにいるんですか」


 私とずんだ餅さんは、とある場所にやってきていた。その建物は、現実世界でも見たことはある。


「こんなあからさまな建物、ゲーム内にも存在してたんですね……」

「いえいえ、ゲームだからこそ、じゃないですか」


 建物を並んで見上げているずんだ餅さんも言う。


「こんな建物、現実世界ではもう、世界史の教科書くらいでしか見ませんし……」


 建物の中から聞こえてくる大歓声が、ここまで風に乗って響いてくる。教科書や、テレビでしか見たことがないような風景。そう、それは昔、コロッセウムと呼ばれていた場所によく似ていた。



『……あー。今日は、試合だとかなんとか言ってた気がするな……。下手をすると、ゲームに閉じ込められたことすら、気付いていないかもしれない』


 シュウさんのどこか気の抜けた、でも愛情がにじみ出ているような声に、私は少しだけ胸がズキッとする。


「ゲームに閉じ込められたことにすら気づかないって、一体どういう状況なんですか。それに、試合って。まさか、ご本人様が出場してるってことですか」

『……そう言わなかったか』

「聞いてませんよっ」


 ずんだ餅さんとシュウさんのやり取りを聞きながら、私の頭の中ではシュウさんの恋人のイメージが固まっていく。


 筋肉質で、ショートカット。モンスターとかを軽々持ち上げちゃう人で、性格がサバサバしてて……。


「サランさん? サランさん?」


 ずんだ餅さんの言葉で、我に返る。


「あ、すみません。行きましょう」


 シュウさんの案内で、私たちはどんどん建物の奥へと誘われる。通り過ぎていく人々は様々な格好をしている。


 甲冑に身を包み、剣を携えている人。和服に身を包み、刀を手にしている人。棍棒をもって、腰布一丁の人。


 ただ、どの人たちにも共通しているのは、その目つき。ギラギラしてる。まるで、獲物を捕まえようとしている、お腹をすかせたライオンみたい。


『そこの曲がり角を左に曲がれ。そしたら向かって右側に、アイツの控室があるはずだ』


 胸の鼓動がだんだん早くなる。ああ、シュウさんの恋人がもう近くにいるんだ。どんな人だろう。


 辿り着いた場所には扉があって。その扉には、羊皮紙がくっついている。


『シュウカ控室』


 シュウさんの恋人って、シュウカっていうプレイヤーネームなんだ。そんなことをぼんやり考える。


 軽くノックすると、中から快活な声が返ってきた。


「はーい、どうぞー」


 その声音は、どこかで聞いたことがあるような気がした。

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