店で聞いた会話

 

 やりたいことも見えてきた。あとは、自分自身を成長させることに少しずつ力を入れていきたいね。

 

 私は、ヘッドギアをセッティングすると、ゲームにログインした。今日は新しいアイテムを作るわけじゃなくて、商品の補充だけでいいかなぁ。


 そうぼんやりと考えながら、カンナさんのお店の商品棚をあちこち見て回る。うん、私が作った『初心者が作った傷薬』。これがやっぱり売れるな。


 この傷薬づくり自体はスキル使用を必要としない。なので、私は傷薬を作りながら、次にどういったことをしようかと考え込む。


 そんな矢先、お客さんがやってきた。接客自体はカンナさんがしてくれていたけれど、お客さんの会話は作業中の私にも聞こえて来た。


「なぁ、この街のすぐそばのダンジョン、最近なんか様子がおかしいんだって?」

「ああ。元々この辺は初心者用のダンジョンばっかりだったはずなんだけど、明らかに初心者用じゃないダンジョンが増えたって話だぜ」


 RPGだと、始まりの街の付近にはだいたい一本道が続いて、その道の向こうに森とか山とか洞窟とかのダンジョンがあって、そこを超えないと次の街に進めないという設定が多いと思う。


 オープンワールドで自由にマップを歩けるゲームだと、ストーリー中盤くらいに手に入るキーアイテムがないと進めない場所があったりする。それでその向こうに手ごわい敵が配置されてたりするよね。


 このゲームもどちらかというと自由度の高いゲームで、ストーリーはあってないように見える。それに始まりの街から隣町に行く道すがらだけでもあちこちにダンジョンがありそうな感じだった。


 でも、この人たちの会話を信じるとすれば、ここから隣町に行くまでの道にあるダンジョンは基本的には初心者向けの設定がなされてたってことだよね。でも、どうやらそれが少しずつ変わりつつあると。


「この時期になってくると高レベルプレイヤーも出てくる。やりこみ要素として、高難易度のダンジョン配置をし始めたんじゃないか」


 RPGだと、まずはストーリークリアが目的となる。ただ、ストーリークリアでゲームは終わらない。「やりこみ要素」として、ゲームによっては様々な特典だったりゲームを続けてもらうための工夫がなされていることが多い。


 このゲームはストーリークリアという明確な一つのゴールはない。そういったゲームは定期的に大型アップデートと称して季節のイベントだったり期間限定の高難易度クエストを作ってみたりする。


 ゲームが発売されてから、それなりに時間も経った。そろそろ恒常のクエストなどだけでは飽きてくるプレイヤーも出てくる時期だよね。だから大型ではないにしろ、アップデートとして、様々な場所に高難度のダンジョンを追加したりしたのかもしれない。これは、シュウさんに聞けば詳しいことが分かりそうだ。


 シュウさんに聞いてみて、私でも入ることのできるようなダンジョンがあれば、一度挑戦してみたいな。もちろん高難度をいきなりプレイするのが難しいようであれば、初心者用のでも構わない。よし、とりあえずやることが決まったね。

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