シュウさんと連絡を取る前に


 そんなわけで、シュウさんがもしログインしているようであれば、合流してもらおうと思ったんだけれど。ログインしている知り合い一覧にシュウさんの名前はない。


 一つため息をつきながら、一覧表を見ていると大藤さん……――、もといフジヤさんとフリントさんがログインしているのが分かった。


 そういえばフリントさんには、あの、自分探しの旅を延期するという連絡をして以来連絡してないな。近況報告とか、しておいた方がいいよね。


 そう思った時だった。受信ボックスに新着メール。差出人は……、フリントさんだ。


『お久しぶりです。お元気ですか。連絡があるまで待とうかと思っていたのですが、心配でこちらから連絡させて頂くことにしました。その後、いかがお過ごしですか』


 多分、フリントさんは私がログインしていることに気づいてる。だけど、気を使って直接会いに来ずに、わざわざメールにしてくれたんだ。


 私はすぐにメールを返信する。


『お久しぶりです。あの後まったく連絡をせずに申し訳なかったです。もしお時間あるようでしたら、今から会って話しませんか』


 私がそう送ると間髪入れず返信が来る。


『よかった、そう言ってくれると思ってました。実は、お店の近くまでは来ていたのです』


 ああなんだ、来てくれてたんだ。私がそう思った時には、お店の入り口に新しいお客さんの姿があった。フリントさんだった。


「フリントさん、いらっしゃいませ」


 私がフリントさんに挨拶する。するとフリントさんと私の間に立ってカンナさんがきょとんとした顔をする。それからフリントさんを見て、カンナさんがぽっと頬を赤らめた。そうだよね、フリントさんってシュウさんとはまた違って整った顔立ちしてるもんね。


「おやおやサランちゃん、モテモテだねぇ。こういうのをモテ期って言うんだっけ」


 そう茶化しながら、カンナさんはお店の奥のテーブルを片づけてくれて、私達に自由に使っていいよと言ってくれる。


 私とフリントさんは向かい合わって座った。


「ご報告が遅くなりました。私、仕事を辞めることにしました」


 フリントさんは少しだけ驚いた顔をした。私は言葉を続ける。


「元々就職先は、流れに身を任せていたらたまたま内定をもらえた場所だったんです。だから職場には申し訳ない話ですが、仕事に対して誇りであるとかそういった気持ちはほとんどありませんでした」


 そして、上司との関係がうまく行っていないことなども話して、仕事を辞めることにしたのだと伝える。


 フリントさんは私の話を黙って聞いてくれた。それからゆっくりと私の目を見て言ってくれた。


「そうだったんですね。僕のようなリアルを知らない人間に話してくれて、ありがとうございます」

「いえ。重い話ですみません」


 私が謝ると、フリントさんは首を横に振る。


「いえ、とんでもありません。僕は嬉しいんです。リアルを知らない僕なんかに、サランさんが自分のリアルの話をしてくださったことが」


 ああ、確かにネット世界では基本的にリアルの話をすることは少ないし、みんな自分のリアルの話をしないように心がけている。私も普段SNSを使ったりしているときは、できるだけ個人情報だったりリアルの話は避けるようにしている。


 誰でも閲覧できるネットの海に個人情報を流すのは危険すぎる。でも、シュウさんやフリントさんなら、自分のリアルを知ってもらっていてもいいのかなって思っちゃうんだよね。そしてフリントさんはそれを嬉しいと言ってくれた。よかった。


「ですので、以前お話をしていた自分探しの旅およびこの世界でのスキル強化の旅を開始したいとは思ってるんです」


 そう言うと、フリントさんは薄く笑って言った。


「僕でよければ、いつでもお供いたします」


 うん、騎士の格好した人に言われるとすっごく幸せだね。


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