初見殺しの花もうまく活用してみよう


 私は、シュウさんに止められた初見殺しの花を見つめる。


「……シュウさん」

「なんだ」

「この花、なんとか私のスキルでうまくアイテム化できないですかね」


 シュウさんからの答えはない。私は不安になって、シュウさんを見上げた。私、変なこと言っちゃったかな。シュウさんに呆れられちゃったかな。


 私の予想に反して、彼は腕組みして考え事をしているだけだった。シュウさんは少しの間考え込んだあと、私に向き直る。なんだか、すごく思いつめた表情してるけど、大丈夫かな。気分が悪くなったんだろうか。


「……柔らかい素材の装備など、持っているか」

「やわらかいもの、ですか……」


 私は、自分のアイテム欄を確認する。そして見つけた。ログインした最初の日のクエストクリアでもらったアイテム。『幸運のマント』。効果は確認してないけどきっと、いいものだよね。


 私は『幸運のマント』を取り出すと、シュウさんに手渡す。すると、彼は私に言った。


「……もしかしたら素手で触らなければ、結果は変わるかもしれない。試してみるが、もしわたしがゲームオーバーになったら、すまないが一人で街に戻ってくれ」


 そう言うが早いが、彼はマントを広げて花を覆うと、そのまま花をもぎ取った。一瞬のことだった。マントの上に花を広げ持ったまま、私とシュウさんは黙って顔を見合わせた。


「……何も起こらないな」

「起こりませんね」

「……ゲームオーバーにならないな」

「ならないですね」


 シュウさんは、ふうと息づく。


「……聞いたことがある。初見殺しにはすべて、『抜け道』を作っているのだと」

「つまり、初見殺しの罠にかからずに通り抜ける方法があるということですね」

「おそらく。この花の場合は、触れようとしなければ大丈夫だからそれが、『抜け道』だとばかり思ってたのだが」


 どうやらそれ以外にも『抜け道』は存在したらしいね。シュウさんはゆっくりと、マントごと花を私の方へと差し出しながら首をかしげる。


「それで、何かアイテムとして使えそうか」


 私はそっと、マントごと花を受け取って、色々な角度から花を見つめてみた。すると、ポップアップ画面が立ち上がる。


『【魅惑の花】。この花を目にしたものは、手に取ってゆっくり眺めたくなる衝動に駆られる。しかし花びらには毒があり、大型モンスターですら気絶させるほどの力を持つ。布などで花びらを覆った状態で触れると、毒状態にならない』


 おお、じゃあシュウさんの考えは当たっていたんだね。シュウさんも花に触れたからか、花の説明が見えたようで言った。


「花を何かで覆って目隠しをしてやればいいということだな。しかしこの効果、うまく使えばいいアイテムができそうだな」

「はい。とりあえず1つ、ひらめきました」


 私はシュウさんに向かって、ぐっと親指をつきだした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る