食べられるお魚、ドラゴン
「この世界の住人の方に聞いたのですが、『ドラゴン』という名称は、私達が想像している生物以外にも使われているようなんです」
私は、丸メガネの女性のところへ戻るとそう切り出した。
「わたしたちが想像している生物以外……」
「そう、どうやら、どこでもいるような、食べられるお魚にもその名前がついているようなのです」
「食べられる、お魚……」
丸メガネの女性の表情がこわばる。
「その食べられるお魚、ドラゴンのうろこでできた装備、それが今あなたが装備されているもののようなんです」
私がそう言うと、女性はがっくりと肩をおとした。
「ああ、そういうことだったのですね。ドラゴンはドラゴンだけれど、あなたがたが思っているドラゴンだとは一言も言っていない、という……」
「はい、その通りです」
まさに、『ドラゴン(お前の知っているドラゴンとは言ってない)』状態だ。
「でも、あなたが思うドラゴンのうろこ装備に変更することなら、できますよ」
私はごく自然に、そう彼女に言葉を発していた。不思議そうな顔をする女性。私も自分の口から出た言葉に、一瞬戸惑った。でも、もうここまで言葉を発してしまったのなら、続けるしかない。
「信じてもらえるかどうかは分かりませんが。私、アイテムの形を変えることができるんです」
そして、初対面の彼女に自分のスキルについてと今までどんな風にスキルを使って来たかを手短に説明してみた。
すると、最初はひどく落ち込み、疑いの目を向けてきていた女性の目が徐々に変わってきて、途中からどんどん輝く表情に変わってくる。
私が話し終わると、女性は勢い込んで言った。
「お願いします。わたしの装備も、わたしの思うドラゴンのうろこ装備に変えてください」
「分かりました。では、どんな装備をお望みでしょう」
今回は、見た目とアイテム説明だけいじるだけでいいかな。私は女性に問いかける。
「ええ、わたしはあくまでこの装備がわたしの思う、ドラゴンのうろこ装備であればそれで構いません。アイテムの能力などにはこだわりませんから」
女性は頷く。それなら、いつもより簡単に作り上げることができそうだね。
「では見た目とアイテムの説明が自分から見た場合、それから他者から見られた場合にきちんと、『魚ではないドラゴンのうろこでできた装備』になるよう、調整しますね」
人の役に立てるって、やっぱり気持ちがいい。現実世界ではここまで頼りにされることって、自分の仕事が回らないときに、手伝えって言われた時くらいだもん。しかもそれだって、お礼の1つも言ってくれない場合の方が多い。私の職場が悪いのか、それともそういう会社が多いのか、それは私もよく知らないけど。
それじゃ、いっちょ、人の役に立っちゃいますか。
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