認識の相違?
私は、おそるおそる丸メガネの女性に言った。
「あのぅ。ドラゴンって、どのドラゴンを想像されてます?」
大学で学んだことだけれど。西洋と東洋で『龍』の認識に違いがあるらしい。
西洋での『龍』はドラゴンであり、火を噴き、悪役でよく登場する、翼の生えた、ファンタジー世界でよく出てくるあの想像上の生き物。
対して東洋の『龍』は『竜』であり、翼がなくて、4足歩行で、とかげみたいな形をしている神様。東洋ではめでたい存在だったり、神様だったりする。
この人の考える『ドラゴン』の認識も、私の思っている『ドラゴン』と認識違いがあるかもしれない。女性は『魚のドラゴン』のうろこを求めていたのかもしれない。そう、思ったんだけど。
「え、ドラゴンって言ったらそりゃ、大きくて翼の生えた、ファンタジー世界でよく出てくるアレのことですよ」
女性の言葉で、私は大きく肩を落とした。どうやら、私と彼女との間で『ドラゴン認識違い』はなかったようだ。
「ちなみに、ドラゴンという名の魚はご存知ですか」
私の問いに、女性は首を横に振る。
「いえ、知りません。そもそも、ドラゴンなんて名前の魚、いるんですね」
「ええ、私も今初めて知りました」
私の言葉に、女性は怪訝そうな顔をする。うん、これはどう見ても、この人、自分が手に入れた『ドラゴンのうろこ装備』が魚のドラゴンのうろこでできたものだと、知らないと思う。
「あの、えっと。……驚かないで聞いてくださいね。あなたのその装備、とっても素敵なんですけど、どうやらあなたが思っているドラゴンのうろこの装備ではなさそうなんです」
私の言葉に、ますます女性が不審な視線を向けてくる。
「すみません、初対面の人間にこんなこと言われても困るとは思うんですけど。でも、本当なんです」
「でも、ドラゴンのうろこ装備ってありますよ?」
「ええ、ドラゴンのうろこという部分には間違いはなさそうなんですけど、その。……ドラゴンという認識自体が私たちと異なったものだと思われるといいますか……」
私はそう言いながら、視線を泳がせる。正直に話し始めたのはいいけれど、これ、私がただ初対面の相手に恨まられるだけだったのでは。「ドラゴンのうろこ装備」には変わりがないのだから、何も知らなかった方がこの人は、幸せだったんじゃないのかしらとか。
でももう遅い。こんなところで、「いえなんでもありません」なんて言ったところで、問いただされて結局続きを話すことになるに決まってる。
だったら話し始めた以上、関わってしまった以上、責任をもって伝えるしかない。そんなとき、店の奥からカンナさんが出てくるのが見えた。カンナさんなら、「魚のドラゴン」について知ってるかな。
私は丸メガネの女性に断って一度その場を離れると、カンナさんに駆け寄った。
「すみません、カンナさん。ドラゴンっていう魚、ご存じですか」
私の言葉に、カンナさんは不思議そうな顔をした。
「ああ、もちろんさ。どこにでもいる魚だけど、食べるとうまいよ」
まさかの食べられるお魚! 世界は驚きに満ちている!
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