私達の知っている『ドラゴンのうろこ装備』に
「では、いくつか質問させてくださいね」
私の言葉に、女性はこっくりと頷く。『ドラゴンのうろこ装備』を彼女の思っている通りの姿に変える。どうせなら、彼女の思い描いているものそのものに近づけてあげたいよね。
「まずは、ドラゴンといっても色々ありますが、どんなドラゴンを想像しますか」
私はここで言葉を切り、女性の顔をまっすぐ見つめて言葉を続ける。
「ご期待に全てそえるとは思いませんが、できるだけ理想に近づけるよう努力はしたいと思っていますので、ご協力頂けますか」
「それは、もちろん。見ず知らずのわたしのために、感謝します」
女性は、すぐさまそう言ってくれる。やっぱりちゃんと感謝を伝えてくれる人って、素敵。そうやって感謝を言葉にしてくれる人になら、こちらも頑張って力を貸してあげたいと思えるもんね。サービス業って、そんなもの。
高圧的に言葉を押し付けてくる相手には、最低限のサービスしかする気が起きないけど、サービス提供側にも1人の人間として対等に接してくれるお客さんにはこちらもできうる限りのサービスを提供したいと思う、それが人間の思考だと思う。
女性は腕組みをしてうつむく。メガネがずり落ちそうになるのを片手で押しとどめながら、彼女はゆっくり言葉を発する。
「えっとですね……。わたしが思いえがく『ドラゴン』は、翼の生えた赤いドラゴンです」
赤、だね。色は重要だ。今、女性が装備している『ドラゴンのうろこ』装備は、緑に近い色。はたから見れば、確かにゲームに出てくるような『ドラゴン』を彷彿とさせる見た目。
「そのドラゴンは、若いドラゴンですか。それとも歴戦のドラゴンでしょうか」
私の質問に、女性はきょとんとした表情を浮かべた。それから、うーんと唸る。
「そう、ですね……。歴戦のドラゴンで」
「赤い、歴戦のドラゴンのうろこでできた装備……」
ふむふむ! 創作意欲がわいてきたぞお。私は、女性の装備を見つめる。すると、画面にポップアップ画面が立ち上がる。
『ドラゴンのうろこ装備に言霊・物語付与スキルを使用しますか』
私は、はいと選択すると、言葉を紡ぐ。
「『ドラゴンのうろこ一式装備(改)』。歴戦の赤いドラゴンから手に入れたうろこを1枚1枚貼り合わせて作った1点ものの装備。とある山奥に住まう赤いドラゴン。どんな冒険者も倒せず、追い払うしかできないドラゴンがいた。この装備は、そのドラゴンが撤退する際毎回1枚だけ落としていくうろこを集め、貼り合わせたもの。作り手の粘り強さが反映され、装備した者は何事も辛抱強く続けることができる」
私がそう言っている間にも、女性が身に着けていた装備が光に包まれていく。女性は目を丸くして、光る装備を見つめている。
光が収まると、そこには先ほどまでの緑色の装備は消え、綺麗な赤色のうろこがびっしりの、『ドラゴンのうろこ装備(改)』が完成していた。
さっきまでの『ドラゴンのうろこ装備』は少し色がくすんでたけれど、新しくなったうろこ装備は、ぴっかぴか。装備自体がうれしさで輝いてるみたい。
その装備の喜びを反映しているかのように、女性の顔にも素敵なおもちゃを見つけたときの子どものような表情が浮かんでいた。
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