初めての遭遇
そんな時だった。近くの草むらが大きく揺れた。私は、物音のした方を向いて立ち上がる。よかった、このエリアから出ようとしている人かな、それとももう、この世界になれた人かな。
どちらでもいい、とにかく誰かに出会えたなら、なんとかなるかもしれない。そんな私の期待は、ものの数秒で打ち砕かれた。
私の目の前に現れたのは、人間ではなかった。一匹のゴブリンだった。緑色の上半身に、獣の毛皮を巻き付けて、手には、棍棒のようなものを持っている。
えーっと。これって、かなりまずい状況なのでは。そして、どうしてこんな始まりの街にまだ行ってもいないプレイヤーの前に、こんなモンスターが出てくるの。もっとちっちゃくてかわいい、スライムとかが出るなら分かるし、逃げられそうな気もするけど。
そもそもこのトラバサミ、実はこのゴブリンが仕掛けてたっていうことないよね。
『ゴブリン。敵対。推定レベル3』
そんなアナウンスが頭の中で流れる。まだ何もしてないのに、敵対しちゃってるよ。まあ、人間という種族自体、ゴブリンからしたら、敵だよね。
どうしよう、一度ここから離れて後で戻ってくる方がいいのかな。でもそうなると、その間にこの人の身に危険が及ぶよね。
そんなことを考えている間に、ゴブリンがじりじりと距離を詰めてくる。まずい。
「起きて、お兄さん。とにかく起きて!」
私は男の人の体をゆする。だめだ、全然起きる気配がない。もうゴブリンが目の前まで迫ってる。うわあ、リアル。じゃない、少なくとも今の私にとってはここが現実だ。
その時、私とゴブリンの間に一本の矢が突き刺さる。矢が地面に刺さった瞬間、透明のベールが波のように広がっていく。ゴブリンは驚いて、後ろにとびのいた。すると薄いベールが、私と倒れたままの男の人を包み込むように展開される。
ゴブリンが棍棒でベールを殴ろうとする。私は慌てて後ろに下がる。すると、金属がぶつかる音がして、ゴブリンが後ろに弾き飛ばされているのが見えた。
え、このベールが私たちを守ってくれてる……のかな。私は、さっき飛んできた矢を見つめる。すると、頭の中にアナウンスが流れてくる。
『守りの矢。狙撃手のレベルにより、効果は異なります。一定期間、狙撃手が指定したものを守護する防護壁を展開するアイテムです』
お、おう。……なんだかよく分からないけど、誰かに助けられたみたい。私は、とりあえず叫ぶ。
「どなたか存じませんが、助けて頂きありがとうございます」
助けてはくれたけど、トラバサミ解除協力はできない状況なんだよね、きっと。まずはこのチャンスを逃さずに、この人のトラバサミを解除して、始まりの街まで戻る手立てを考えないと。
棍棒を持って、何度もぶつかってきているゴブリンを眺めながら私は考える。
「これを、トラバサミじゃないものに変えられたらな……」
そう、何気なくつぶやいてしまう。そう、これがトラバサミみたいなトラップじゃなかったら、問題ないわけだし。足につけるオシャレアイテム、アンクレットって言うんだっけ。アレならいいのにね。
するとまた、頭の中でアナウンスが聞こえる。
『トラバサミを、保有スキル言霊・物語付与により別のアイテムに変えますか』
「え、そんなこと可能なの」
私は思わず頭の中のアナウンスに聞き返してしまう。これ、現実だったら確実に頭おかしい人だろうけど、VRMMOの世界の中だもん、メニュー画面とか頭の中にあるわけだし、かまわないよね。
『熟練度により、変えられるアイテムに制限がありますが、可能です。実行しますか』
「できるなら、もちろん」
私は即答して、トラバサミを見つめる。すると、再びアナウンスが聞こえた。
『トラバサミを何に変えますか』
「とりあえず、足につけるアクセサリーに」
アクセサリーなら、最悪足についたままでも困らないでしょ。靴下で隠せるし。私がそう思って答えると、アナウンスが聞こえる。
『それでは、トラバサミを別アイテムに変えるため、物語か言霊を付与してください』
物語か言霊を付与するの。どうやって、やったら……。
『別アイテムに変えたいアイテムを見て、変えたいアイテムの情報などを与えてください』
アナウンスの声が聞こえて、私は頷く。そしてトラバサミに向かって言う。
「トラバサミさん、あなたはトラップではなくなる。トラップではなくて、この人をおしゃれに着飾る素敵なアイテムへと生まれ変わるんです。おしゃれアイテムになるのです」
これをひたすら言い続けてたらいいのかな。私が困惑していると、トラバサミが淡い光に包まれた。そしてアナウンスの声が聞こえてくる。
『トラバサミを、アクセサリーリボンに変更しました』
光が収まった、さっきまでトラバサミがあった場所を見ると、そこには真っ赤なきれいなリボンが巻いてあった。
え、え、えええええっ!?
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