クエスト達成?


 これ、本当にリボンなのかな……。私は思い切って、男の人の足に巻き付いてるリボンに触れてみる。トラバサミの金属っぽい感触じゃなくて、サラサラの手触り。うん、これはリボンだと思う。


 リボンになったのならこれ、外せるんじゃないかな。私は、リボンがほどけるか試してみることにする。すると、いとも簡単に、するするとほどけた。手に持ったリボンを眺めると、ダイアログボックスが出てくる。


『アクセサリーリボン。相手を拘束するのに利用可能。ただし、頑丈さはリボンに基づく』

「ということは、すぐに破けちゃうってことだね」


 私は独り言のように言いながら、とりあえず自分の腕に巻き付けておく。何かに役に立つかもしれないからね。続けて、不思議な効果音と共にアナウンスが入る。


『シークレットクエストを達成しました。報酬一覧を提示します』


 目の前にもう1つダイアログボックスが表示される。題名は、『シークレットクエスト・人助け』。えっと、今の一部始終がクエストだったってことでいいのかな。いつの間にか、目の前にいた男の人は消えてるし。ついでに言うと、ゴブリンまでいなくなってる。


 ということは。あの男の人、NPCだったってこと!? このクエスト用に用意された人員!?


「あー、心配して損した……。だけど、よかった。私のせいで事が悪い方向に行った人はいなかったわけだし」



 私は呟くと、報酬画面を見つめる。赤色とか紫色とか、青色とか、様々な色で表示されたアイテム。武器もあれば、消費アイテムっぽいものもある。報酬ダイアログボックスの向こうに、矢が透けて見えた。


 あ、さっきまでゴブリンの攻撃から守ってくれた矢は残ってる。だとすると、あれはクエストであらかじめ手配されたイベントではなくて、誰かが本当に助けてくれたんだ。


 私はダイアログボックスを開いたまま、矢を拾い上げる。手に取った矢に、別のダイアログボックスが立ち上がる。


『作成者:シュウ』


 その隣におそらくそのシュウって人のIDが表示される。IDをタッチするように指を動かすと、アナウンスが流れた。


『シュウさんに、アイテムを送ることができます。ただし、高レアリティのアイテムは1日1回しか送ることができません』

「それなら、この報酬アイテムの中でレアリティの高い武器を送りたいんだけど……」


 私の言葉に、新たなダイアログボックスが立ち上がる。


『こちらのアイテムを送りますか』


 そこには、ボウガンっぽいアイコンが表示されている。詳しいことは分からないけど、これがさっきもらったアイテムの中で推奨されるプレゼントなのかな。助けてくれた武器も弓とかボウガンの類だろうし、いいと思う。


「じゃあ、それで」

『メッセージも一緒に送りますか』


 ダイアログボックスの文言に、はいと返答して、メッセージをつけたす。


『初めまして。この度は助けて頂きありがとうございました。ささいなものですが、ほんの気持ちです。必要なければ売る等して処分してください。ありがとうございました』


 そして、シュウという相手に送付する。その間に報酬画面のダイアログボックスを消すと、ダイアログボックスが1つもなくなって、クリアな視界に戻った。矢印だけが、まっすぐに続いている。


 始まりの街があると思われる方向に歩き始めてすぐ、ダイアログボックスが一つまた立ち上がってきた。今度は何だろう。


『シュウさんから、1通のメッセージが届きました。開封しますか』


 ダイアログボックスの「はい」に指を合わすと、プレゼントボックスが落ちてくる。え、これそのまま出てくるのね。てっきり、勝手に収納してくれて、こっちで後で開けるのかと思った。


『気を使わせてしまったようで申し訳ない。お言葉に甘えて使わせてもらう。交換レートに見合わないだろうが、現在こちらで譲渡・提案できるものを提示させてもらっておく。また何かあれば連絡してくれ』


 シュウさんからのメッセージ。交換レートに合ってないって……。あれ、そんなに高価なものだったのかな。私は首をかしげる。メッセージが薄れていくと、別のダイアログボックスが現れる。


『シュウさんから、ペアリング申請が届きました。受諾しますか』


 ペアリング申請? よく分からない用語だけど、イヤホンとかを自分の携帯と同期させるアレかな? それともフレンド申請的な何かかな。まあ、助けてくれた人だし、悪い人じゃないと思うから受諾しておこう。


 私は、受諾に指を合わせる。そして再びダイアログボックスが全て消えた状態で、プレゼントボックスを抱えて走り始めた。目指すは、始まりの街。


 ものの3分ほどで、森を抜けて街の入り口にやってきた。大きな噴水が中央に合って、そこから三又の道に分かれている。それぞれの道には、お店がずらりと並んでいて、賑わっていた。


 ああ、これが始まりの街。ついに到着したんだね!

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