SS1
FET
SS1
だめだ。
どうしてもうまく行かない。
先輩からはまだ若いんだから、じっくりうまくなればいいと言われるが、
実際には後輩はTVに出て人気がうなぎのぼりなやつもいれば、
着実に力をつけて、もう二ツ目に登ることもある。
対して俺はというと、たまに前座をやるくらいの落語家だ。
いや、落第家と言ったほうが良いかもしれないな。
大学を出るまでは良かった。
小さい頃から何でもできた。
県内屈指の進学校から国立大学へ一発入学。
部活も陸上競技で200mで全国とまでは行かないものの、県大会では2位をとれた。
そのまま東証一部上場企業の内定。
順風満帆だったんだ。
しかし、偏屈な友人に誘われて行った寄席が間違いだったのかもしれない。
初めて見た落語は今まで見た何より輝いて見えた。
これこそが自分が目指すべき姿に見えた。
迷わず弟子入りしたのはもう8年も前の話になる。
両親も友人も皆反対した。
そりゃそうだろう。
過去に戻れるなら俺自信が反対する。
気がつけば、紅葉がはらはらと舞ってくる通りまで歩いてきた。
タイルの歩道は毎朝丁寧に掃かれているのか、葉っぱはあまり積もっていない。
車が一台通り過ぎていったら、あたりは静まり返って時間が止まっているようだ。
ちょうど歩行者も俺一人しかいない。
この静寂は永遠に続くんじゃないかと思えるほどだ。
すこし進むと、ふとピアノの音が聞こえてきた。
音楽は全く詳しくないので、曲名はわからないが。
だが、その音色はあの日、初めて寄席に行ったときの光景を思い出すほど、
とてもとても光り輝いた音色に聞こえた。
こんなところで腐ってる場合じゃない。
もう少しがんばろう。
頑張ったからといってどうこうなるかはわからない。
しかし、やらないとそもそも輝いて見えたあの場所には行けないのだから。
SS1 FET @JasteaFet
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