【予告】

「ええーっ、あの小北さんと会ったの」

「ああ」

 久々の部会。福原は、大きな口を開けて驚いていた。

「し、しかも勝ったの」

「ああ」

「すごい」

 まだ、三年生は来ていない。安藤はパソコンに向かっている。

「どんな感じだった?」

 本を読んでいた北陽が、二人の方を向いて尋ねた。

「なんていうか、自由そうでした」

「ははっ、そうだろうね。あの人、就活もしてなかったし」

「む、無職ってことですか?」

「そうなのかなあ」

 扉が開く。部長の覚田が、部室に入ってきた。

「みんな揃ってるかな。あ、野村君がまだか。佐谷君はいるね」

「はい」

「いやあ、君、すごいことしたね」

「え?」

「来週、ビッグ4が来るってよ」

 少しの間、静寂が訪れた。安藤もパソコンの画面から顔を上げていた。

「えー、く、来るって、4人?」

 福原は手をばたつかせながら尋ねた。

「ああ。4人ともだって。まったく、大変なことになったよ」

 覚田は、天井を見上げてため息をついた。



 蓮真が小北に勝った後。二人は感想戦を終えて、しばらく話を続けていた。

「将棋部はどんな感じなのかな」

「春は最下位でした」

「あー、まあ、それは仕方ないかな」

「俺は、マスター戦出ました」

「さすが! 強いはずだよ」

「小北さんも出たんですか」

「3年の時。ベスト4だったかな」

 蓮真は、唇をかんだ後、少し顎を上げた。

「今日は、調子が悪かったってことですね」

「ははは。まあ、最近あんまり将棋できてなかったけど。調子のせいにはしないよ」

「でも、次は俺に勝てると思ってますよね」

「そんなそんな。でも、負け続けるとは思ってないよ、もちろん」

「部室来てくださいよ」

「え」

「単刀直入に言います。先輩たちのせいでいっぱい辞めたって聞きました。おかげで俺たちは困ってるんです。ちょっとは責任取ってくれてもいいんじゃないですか」

「……君、口が悪いね」

 小北の目は笑っていなかった。蓮真はそれを見て、心の中で笑った。

「部を壊して、卒業してはい終わりってダサいと思うんですよ。しかも負けましたよね。ビッグ4って、実はそんなに強くなかったんですか?」

 蓮真は、自分の言葉に驚いていた。そして、非常に効果的なことを実感していた。

「いや、絶対勝てないよ」

 小北は、蓮真を指さした。その指は震えていた。

「そうですか」

「怖さを知った方がいいかもね。今度、行くよ」

 二人は、不気味な笑みで見つめあった。

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