【再会】

「おめでとう」

 あまりにも真正面から目が合ってしまったので、思わず蓮真の口から声がこぼれ出た。

「……ありがとう」

 小さな声で応えると、立川はそのまま通り過ぎていった。

「佐谷君、知り合いなの?」

 村原は、ずっと立川の後姿を目で追っていた。黒い髪が、小さく揺れている。

「ええ、まあ」

「そういえば地元が一緒か。立川さん、強かったよねえ」

 女流マスター戦で、立川は優勝した。一年生にして、学生女流のトップに。しかし蓮真をはじめ、彼女の実力を知っている者は結果に驚くことはなかった。

 言葉を交わしてしまったことで、蓮真の中で歯止めがなくなってしまった。もし、三人とも県立大に入っていたら。ビッグ4のいないチームが、圧勝するというのは無理な話だ。それでも、あと2枚加わるのは大きい。エース野村に、一年生3人。夏島・覚田の相手もゆるくなれば、かなり勝ちが見込める。優勝できたかはわからないが、優勝争いはできたのではないか。

 三人は、新たな「ビッグ3」として、県立大将棋部を引っ張っていく存在となれたかもしれない。

 しかし現実には、蓮真以外の二人は絶対王者、紀玄館に入った。半年前には1位と2位だった2チームの差は、とてつもなく大きくなってしまった。

 どうしてこうなってしまったのか。蓮真は、少し泣きたくなっていた。全国大会に出れば、何かが解決するかもしれないと思っていた。けれども、悩みはさらに深くなってしまった。

「複雑な顔してるね。いろいろあるのかな」

「はい。でも……気にしてばかりもいられないです」

「気にしたっていいんじゃないかなあ。佐谷君、怒りを力に変えるタイプみたいだし」

「……」

 怒りで、どこまで行けるのか。団体戦での一敗。地区予選決勝での敗北。そして、冬田に対する完敗。蓮真は、壁の分厚さを実感していた。それでも。

 乗り越えねばならない。自分も、チームももっと強くする。

 涙を押し戻すための決意を、蓮真は心の中で何回も繰り返した。



「『おめでとう』って、言われた」

 立川の方は、涙をこらえきることができなかった。

 松原は、そんな彼女の肩にそっと手を置いた。

「気にしてもしょうがない。俺たちは、自信をもってここを選んだんだから」

「でも……」

「蓮真は大丈夫。今回だって、代表になってたじゃないか。あいつは一人でやっていける」

 それ以上、言葉はなかった。

 実は、松原も心の中では震えていた。対局中も、蓮真の視線を感じていた。今もその感触から、逃れられずにいたのだ。


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