【過去と今】
大将蓮真、副将立川、三将松原。三人の中学生は勢いに乗って勝ち上がり、決勝戦に進出していた。
学校は違うものの、同じ県で何度も顔を合わせてきた三人だった。「団体戦に出よう」と言い出したのは松原だった。そして県大会を勝ち抜き、西日本大会までやってきたのだ。
松原と立川は、小学生の時に個人戦で全国大会に行ったことがあった。蓮真だけが、初めての県代表だった。中学生の蓮真は早見え早指し、対局中によくきょろきょろしていた。
「次勝ったら優勝かあ」
最後の一戦を控え、蓮真は体を揺らしていた。落ち着かないのだ。
「蓮真、頼むぞ。大将なんだからな」
「任せとけ!」
二人のやり取りを、立川は温かい目で見つめていた。
帰りの新幹線、松原はずっと黙っていた。
蓮真も立川も、そして親たちも、声をかけられなかった。泣くでもなく、悔しがるでもなく。ただずっと、黙って前を向いていた。
決勝戦、結果は0勝3敗。強敵相手に完敗だった。松原が勝っても、チームは負けていた。けれども、「王手放置で反則負け」という結果は、彼に重くのしかかっていた。
そして松原は、親と約束していた。受験勉強のため、三年生になったら将棋をいったん休む、と。次の年、三人で団体戦に出ることはできない。
そして三人は、別々の高校に入った。それぞれの高校で団体戦に出ることはあっても、三人で組む機会はなかった。そのころ、県立大学の躍進が注目され始めた。ビッグ4と呼ばれる同級生を中心に、全国大会で上位に入る活躍をしていたのだ。
「三人で、県立大学に入らないか」
提案したのは、蓮真だった。
「地元の大学で、全国優勝するんだ。かっこよくないか」
松原も立川も、思いは一緒だった。三人でもう一度戦いたい、トップに立ちたい、と思っていたのだ。
松原の攻めが、切れた。冬田陣は固い。
蓮真に勝った冬田は危なげなく勝ち上がり、ベスト8で松原との紀玄館対決となった。二年生と一年生。ともに団体戦全勝。注目の対決には、見学の人だかりができていた。
蓮真も、その中にいた。いろいろなことを思い出しながら、盤面を眺めていた。
松原の顔が、歪んでいた。もう、どう見ても勝ち目はない。それでもまだ自玉は堅く、しばらく詰まされることはないだろう。相手玉の遠くに、歩を垂らした。と金になったとしても、それほど響きはない。それでも、攻めることをあきらめなかった。冬田の方は、顔色一つ変えない。一定のリズムで、淡々と指し続ける。
松原の顔から、生気が失われていく。冬田の引いた馬によって、と金が詰まされていた。冷たすぎる手だった。
「ありません……」
松原は、深々と頭を下げた。
蓮真は、その場を動かなかった。松原よりも、冬田が気になり始めていたのだ。自分を負かし、そして松原をも簡単に倒した人。
「あと一年で越えられるだろうか」蓮真は、自分に問いかけていた。
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