【3回戦】

「福原さん、お願いね」

「は、はぃぃっ」

 高くて細い声だった。

 三回戦。ついに県立大はオーダーを変えてきた。といっても、控えは一人しかいない。代わって入ったのは紅一点、一年生の福原沙月である。

 相手は、徳治大学。地元強豪がコンスタントに入り、常にA級をキープしているチームだった。

「よう、久しぶり」

 そして大将席に座った男は、蓮真に親しげに話しかけてきた。

「布田さん」

「県立大だったんだな。てっきり関東に行くかと思った」

「……」

 高校時代代表になることのなかった蓮真は、大学ではあまり顔を知られていなかった。しかし布田は同郷。蓮真のことも、蓮真の強さのことも知っており、さらには徳治大学のエースだった。

 蓮真をつぶすためのオーダーを組んできたのである。ここまで蓮真は、危なげなく連勝してきていた。どちらかというと中野田のほうが、要注意人物としてマークされ始めていた。しかし、知り合いの目はごまかせない。

「楽しみだなあ」

「よろしくお願いします」

 そしてこの将棋は、序盤から布田が有利に進めた。二戦目まで接戦で、布田の感覚は研ぎ澄まされていた。それに対して蓮真は、相手のレベルがいきなり上がり、すぐには感覚を合わせることができなかった。知り合いであるという動揺もあった。いろいろと思い出してしまった。

 隣で、夏島が早くに勝利した。普通ならば仲間の勝利はうれしいものだが、団体戦はそう単純ではない。夏島が簡単に勝てたということは「外された」ということで、他の当たりがきつくなっているのである。

 勝たなければ。その思いが、蓮真を空回りさせる。

「負け……ました」

 蓮真は、盤につきそうなほど頭を下げた。

 対戦表を見ると、1勝4敗。すでに覚田・北陽・福原が負けていた。残っているのは四将、中野田。相入玉模様の熱戦が続いていたが、駒の数に差があった。200手を越す対局を、中野田が制した。

 結果的には、蓮真が勝っていてもチームは負けていた。それでも、三試合目で負けてしまったこと、知り合い相手に平常心を保てなかったことに、蓮真は悔しさを感じ続けていた。



3回戦 

県立大学 2-5 徳治大学

佐谷×

夏島〇

野村×

中野田〇

覚田×

北陽×

福原×

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