【大会二日前】

 大会二日前、夜七時。部員たちは、部室に集まっていた。大会前最後のミーティングである。

 七人が座り、その前に部長の覚田が立っていた。

「いよいよ春大会。いろいろと大変だったけど、とにかくこうして新入生が入ってくれたので、大会に出ることができる。本当に感謝してるよ」

 この場にいる半分は一年生だった。大会は七人制。一年生が入らなければ、部員は四人だった。四人では全勝しなければ勝利はなく、四年生の夏島は「それなら出なかった」と断言している。

「でも、正直すごく厳しい。最近はどこも力をつけてきてるし、部員数も多い。四人も主力が抜けて、8人しかいない僕たちは戦略もほとんど立てられない。正直、降級を覚悟してる」

「ま、しかたないわな」

 夏島は、ぶっきらぼうに言った。

「部長、それでも全力で、優勝、目指します!」

 大きな声を出したのは、一年生の中野田託なかのだたく。蓮真とともに入学式の日に入部してきて、最初から「てっぺんを目指す! 佐谷にも負けない!」と熱かった。

「もちろんそうなんだけど、現実的な目標も立てなきゃね。今のこの部には優勝する力も、全国で戦う力もない。でも、やる気のある一年生が入ってくれた。来年以降、部員が増えたときに戦えるチームにしておく。それが僕の部長としての使命だと思ってる。この一年は、全国制覇を目指せるチームにするための、最初の最初の土台作りだ」

「ま、俺はもう全国行けないってことだけどさ、それはもう気にすんなってことよ。去年いい思いさせてもらったから」

「夏島さんには本当に感謝してます。忙しいのに大会にも出ていただいて」

「貸しね。将来困ったら助けてね」

「はい。まあそれで、たとえ降級することになったとしても、未来につながる戦い方をするよ。そのためにいくつかの作戦と目標を発表する。

 まずは、大将は佐谷君。本当なら三将あたりでエースと当たってほしいけど、今回はちょっと我慢してほしい」

「え、はい」

 7人戦を戦ったことのない蓮真は、まだ部長の言うことがうまく飲み込めずにいた。

「あ、そうか。あのね、大学の団体戦はオーダーが大事なんだ。相手のエースに当て馬を当てたり、スーパーエースでつぶしに行ったり。だから、普通一番強い人を大将には置かない。対策を立てやすいからね」

「なるほど」

「エースとの連戦を避けながらも、一年生で大将で全勝がいる。たとえ降級になっても、県立大が完全に死んだと思わせないはずさ」

「頑張ります」

「うん。あと、中野田君は四将。ここはたぶんきつい。そんな中で力を見せつければ、『あれ、一年はやるじゃん』って空気になる」

「うっす! 全勝します!」

「うんうん。で、これが一番大事なんだけど……最終戦、経大に勝つ」

 場の空気が引き締まった。特に三年生の野村、そして二年生の北陽は目を見開いていた。

「もちろん、優勝候補筆頭だからね、簡単にはいかない。でも、ここにさえ勝っておけば『県立大、まだやれるのでは』と思わせられるからね。そのためのオーダーでもある。いろいろと犠牲にするものがあるけど、許してほしい」

 覚田は、深々と頭を下げた。

「いやいや、正直廃部すると思ったもんな。一年、お前の好きにやれよ」

 夏島は立ち上がり、覚田の肩をたたいた。

「ありがとうございます。じゃあ、明日みんな遅れないように。ちゃんと寝てね。じゃあ、対局しようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る