さよならビッグ4

清水らくは

初めての春

【最終戦】

 春の団体戦、最終戦。県立大対経済大の対戦は、3対3の同点となっていた。

 残されたのは、大将戦だった。県立大は、一年生の佐谷蓮真さたにれんま。初めての大会ながら、ここまで5勝1敗の成績を上げていた。対する経済大は、三年生の津室豪。絶対的エースであり、ここまで全勝である。

 ギャラリーが対局を取り囲んでいた。二日間にわたって行われてきた団体戦も、いよいよクライマックスだ。そして、この日最高の熱戦になっていた。

 蓮真は、ハンカチを口に押し当てて考えていた。熟考すると、どうしても口が開いてしまう。そして彼は、口から思考が漏れ出してしまうように感じていた。

 蓮真を苦しめているのは、対戦相手だけではなかった。自ら全勝を目指していたし、部長からもそれを使命とされていた。にもかかわらず、一日目の第三戦で負けてしまったのだ。ここまで大将で5勝1敗。一年生としては十分な数字である。しかし、蓮真は悔しくて仕方がなかった。一敗たりともしたくなかったのである。自らの甘さ、そして弱さ。それを強く自覚するがゆえに、苦しいのだった。

 仲間たちは息をのんで見守っていた。いや、会場にいるほとんどの人間が見守っていた。時間が時には遅く、そして時には速く進んだ。そして、蓮真はハンカチをテーブルに置いた。津室もうなずきながら、淡々と駒を動かす。

「負けました」

「……ありがとう、ございました」

 その瞬間、県立大の勝利が決まった。

 ただし、順位はすでに対戦前に決まっていた。優勝、経済大学。しばらく準優勝に甘んじていたが、ついに全国の切符を手に入れた。

 そして、最下位、県立大学。以前は全く優勝に絡めなかった中からの、地区大会八連覇。そして全国大会であと少しで優勝という成績を収めてから、まだ五か月。最後は優勝が決まり、控えメンバーを数人出してきた経済大に勝てたものの、1勝6敗という成績でB級への陥落が決まった。

「佐谷君、よくやった」

 それでも、部長の覚田は笑顔だった。

「でも、全勝できませんでした」

「それも予想していた。1敗で終えられれば、と思っていた」

「まじですか」

「すべて、予想通りだ。うん」

 蓮真は苦笑した。そんな彼の様子を見て、覚田はさらに笑顔になった。



7回戦

県立大学 4-3 経済大学

佐谷(一)〇

夏島(四)〇

野村(三)×

中野田(一)〇

覚田(三)×

北陽(二)〇

安藤(一)×

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