第11話 執事見習いの仕事1
ラックが前世の記憶を取り戻してから早くも1週間ほどの時が過ぎた。
その間、前世の記憶を元になぜ、自分がスターライトプリンセスの世界に転生したのかなどと推測を立てていたかといえば、実際のところそんなことはなかった。
この一週間ラックが行ったことといえば今生の記憶にあるグレイス家での執事見習いとしての仕事に忙殺されていた。
知識としての記憶、日々働いていた肉体の記憶もあれど、前世の記憶の量が今生と比べると圧倒的に多いこともあり、些細なことから感じる違和感などから精神的な疲労は募っていった。
漫画やゲームでしか見た事のなかった今生の執事見習いとして行うべき仕事というのはラックが思っていたよりも大変な仕事だったのだ。
見習いであるラックの仕事は早い。
ラックの仕事はまず日の出前に起き、使用人達の暮らす建屋の見回りから始まる。
この時期の早朝は日の出も遅く、ラックが日々の習慣から目を覚ます時は周囲にはまだ闇の帳が降りている。
「トーチ」
この世界に転生して驚いたことの一つである魔術をラックは唱える。指先に揺らめく小さな灯火を見てラックの胸は僅かに高鳴った。
この世界の人間はどうやら全ての生命に魔力、気力というものがあるらしい。
ただし、魔力に関してはテンプレとも言える属性分けが存在する。
グレイス家の嫡男であるアルバートは風。ルファス家のサラは火。彼女の従者であるセラは水。
そして、ラックはと言えば
「色なし。属性魔術を扱う才能なしか……」
残念ながら特定の属性を扱うのに長る魔術の才能はないとのことだった。
とはいえ、これはこの世界では珍しいことでもなくむしろ、特定の属性を操る才能がある方が珍しいのだという。
特定の属性は操れなくともこうしてささやかな灯火や身体強化など日常魔術や無属性の魔術といったものは問題なく使えるためラックとしてはさしたる不満もないのであった。
指先に灯った灯りをランタンの中に置かれた樹脂に移した。
室内を明るく照らす自らが作り出した灯りを見ながら、ラックは冷え込んだ部屋に白く濁った吐息を吐き出すと今日も自らの仕事に邁進するために気合を入れるのであった。
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