第10話 値踏み
広間にいたほぼ全員の視線が一斉に己へと向けられ、居心地の悪さをラックは若干感じていた。
まず第一にラックはこの場にいるルファス家の人々とはほとんど初対面である。
記憶にある限りラックが一方的に彼らの姿を見たことはあっても、これ程近い距離で面識を得ることはなどまずなかった。
そもそも、彼は元々グレイス家の使用人見習いという立場ではなかった。
3年前、路地裏で冬空の中誰からも見向きもされずに死にかけていたところをクロードに拾われて執事見習いとして教育を受けていた。
グレイス家の人々や屋敷を訪れる人々に粗相があっては行けないとのことから、必要最低限の教養が身につく昨年まではグレイス家の屋敷の敷地にある使用人の区画でのみ生活を過していたのだ。
そんな彼が今回の競技に選ばれたの魔力に目覚めているのもあったが、ひとえに日々のクロードからの扱きが原因だろう。
「お前らしくないな、ここまであけすけに探りを入れるのは」
「ハハハ、これはすまない。如何せん気になったものでね。
まだまだ子供ゆえに未熟さは目立つけれども、それでもうちのお抱え騎士筆頭の娘と渡り合ったんだ。
しかも昨年までは見たこともない子だ。どこから引っ張ってきた子なのか興味が湧いても仕方ないだろう?」
「その子はクロードが連れてきた子で、彼の養子だ。
お前が初めて姿を見たのはうちに来てから使用人の仕事を覚えさせるためにこれまで表にでてなかったからだ」
レグルスがラックについての説明をする。すると、何故かは分からないがケーニッヒの興味が先程よりも更に深くなるのをラックは肌で感じとった。
「ほう、クロードさんの。なるほどね……それは益々興味が湧いた」
「今は見習いとして仕事を覚えながらアルバートの傍づきをやらせている。
どうにもその子を気に入ったようでな」
「確かに彼はこの屋敷の使用人の中だと一番アルバート君と歳が近いだろうし気が楽なのかもしれないな」
「そうかもしれんな」
「うちのサラも同い歳のセラを気に入っているし、そういうものなんだろうね」
ハッハッハと広間に響く笑い声をあげて楽しそうに食事をするケーニッヒ。そんな彼から先程不意に話題に取り上げられたラックは緊張から口の中がカラカラになっていた。
一見するとラックに対する話はケーニッヒが持ち出し、レグルスがそれに対して当たり障りない情報を与えて終わったかに見える。
だが、笑顔のまま食事を続けるケーニッヒがふと見せる鋭い視線がラックを射抜く。
値踏みされていると考えるまでもなくラックは確信した。
グレイス家にとってラックという存在が与える影響を今ケーニッヒは取り繕った外面の裏側で強かに計算しているのであろう。
笑顔で交わされる他愛のないやり取りの裏の貴族独特の腹黒さを目の当たりにし、ラックは気分が悪くなっていくのを感じていた。
結局、ケーニッヒから受ける視線は昼食が終わり、彼らが広間を後にするまで続くこととなった。
ラックは各自が使用した食器を疲れた様子で片付け始めるのであった。
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