第8話 両当主の合流

アルバートと達の到着から少しして両家の当主である2人が揃って広間へと姿を見せた。


筋骨隆々とした体躯に、切れ長の瞳。視線の鋭さだけで周りの弛緩した空気を正して、対峙した相手に緊張をもたらす雰囲気をしたレグルス。

その隣に立つのは一見すると優しい風貌をした男性。

だが、その実態は笑顔のまま己の手足とも呼べる配下の能力の限界を見極めて仕事を振る鬼畜。

笑顔の質が上がったら悪いよなんの前触れと影で囁かれるケーニッヒ。


「遅くなった。食事にするぞ」


「悪かったね、子供たちは競技の後でお腹も空いてただろうに」


開口1番に謝罪を口にする二人。使用人たちはレグルスの短い言葉と目配せを察し、準備の整っていた食事を次々とテーブルへ運び始めた。

そうして始まった昼食。和気あいあいとした雰囲気なのはリアラとミリアナの二人だけである。

恐ろしいのは当主と子供たちが硬い雰囲気を醸し出していようがお構い無しに二人の間だけほんわかとした空気が漂っているということであろう。

そんな妻の空気に根負けしたのか、昼食が開始してから一言も言葉を発していなかったレグルスがアルバートへと声をかけた。


「そういえば、アルバート。先程行った競技の結果だが、よくやった

日々のたゆまぬ鍛錬の成果を存分に発揮したな」


父からの賞賛の言葉を受けたアルバートは瞳を輝かせて喜びをかみ締めていた。

当主として忙しない毎日を過ごしているレグルスは息子のアルバートでさえ言葉を交わす機会は少ない。

だが、それでも日々国のために言葉ではなくその行動と生き様で己を語るレグルスをアルバートは尊敬していた。

そんな尊敬する父から掛け値ない賞賛の言葉を受けて喜ばないわけがない。


「ありがとうございます、父上!

ですがあの結果は自分の力でなく力を貸してくれた家臣たちと共に掴んだ結果です。

今後も慢心せず、己を鍛えて家臣の誇りとなる主となれるよう努力します!」


「ああ……励めよ」


「はい!」


グレイス家とルファス家の対抗競技を久方ぶりの勝利で収めたこともあり、分かりにくいがレグルスもまた内心では喜んでいるのだろう。

もっとも、同じ空間にいるルファス家の人間は二人のやり取りを聞いて、当然いい気にはならない。

これまで重ねた勝利の山を取りこぼしたことに競技に参加していた家臣の一人であるセラは益々不機嫌な様子でラックを睨み、サラは歯を食いしばりながら悔しさを表に出さないように表情を取り繕っていた。


「確かに今回は私たちの負けだったね。

では、どうして今回の競技はグレイス家に軍配が上がってルファス家の負けとなったのかを考えてみようか」


食事の席であるにも関わらず、今回行われた競技についての分析を周りの使用人たちも含めてケーニッヒは問いかけるのであった。

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