第7話 両家の奥様は親友同士

昼食の為アルバート達を広間へと案内したラック。

昼食の準備は既に整っており、既に席には二人ほど腰をかけていた。


「遅かったですね、アルバート。レグルス様ももうすぐ見えられますよ」


優しさを感じる微笑みと共に声をかけたのはアルバートの母であるリアラ夫人だ。

掛けられた声から感じられるように彼女はグレイス家の家臣たちに対しても常に優しく接し、その人あたりの良さから親しみと尊敬の念を抱かれている。


「あら? サラとセラも一緒にいたのね。

競技が終わってから姿が見えなかったからどこに行ったのかと思ったらアルバート君と一緒にいたのね」


予想していなかった光景に僅かに驚愕の念を滲ませて声を上げたのはリアラの対面に座っている一人の女性。

サラの母親でありルファス家の当主であるケーニッヒの妻であるミリアナ夫人だ。


記憶にある知識の険悪な両家のイメージとは違い仲の良さそうな雰囲気を漂わせる両家の夫人。

そういえばと、過去の自分が話半分に以前クロードより聞いていた知識をラックは記憶の底から掘り起こす。


リアラにミリアナ。それと両家の当主であるレグルスとケーニッヒは過去に王国にある学園にて出逢い、それぞれ在学中に婚約者となったという。

元々両夫人は親友同士であったらしく、事ある毎に対立する両家に嫁いだ後も家の雰囲気に染ることなく、こうして交流の機会がある度に昔のように仲良く過ごしているのだという。


両家の当主であるレグルスとケーニッヒはそれぞれの立場もあり、そんな二人の姿を見て度々渋い顔をしたり、苦言を漏らすこともあるのだがその度に笑顔で話を受け流されるのだとか……。


最も、仲良くする両夫人に頭を悩ませてるのは当主だけではない。

交流の場を設けられる度に自分たちの子供を仲良くさせようと何かとお節介を焼くこともあり、次期当主として幼いながらも現当主の思想を植えられてる子供たちからしてみれば夫人たちの行動は余計なお世話以外の何ものでもないのであった。


ニコニコと笑顔を浮かべながらここ最近のそれぞれの近況を報告し合う両夫人の姿を見て、この時ばかりはアルバートとサラの二人は顔を見合せ、互いの心境が同じであることを渋々認めるのであった。


広間にて待機していた使用人たちが子供たちの案内を終えたラックの後を受け持ちそれぞれの席へと連れていく。

とはいってもサラの従者であるセラはラックと同じように広間の壁際に控えるのであったが。


今のラックは執事見習いという立場から自分で確実に行える業務以外は基本的には見て学ぶという状況であったため以降は食事が終わるまで他の使用人たちの仕事ぶりを見るのが彼の仕事になる。

とはいえ、昼食が始まるまではどうしても手持ち無沙汰となるためやることも無く視線は宙を泳ぐ。


不意に対面にて控えるセラと視線がぶつかったが、競技で負かされたことに不満を持っているであろうセラはぷいと視線を逸らした。

ラックからすれば今後のことを考えてサラと最も近い立場にあるセラとは仲良くなりたいのであるが先行きは良くないようだった。


転生物のお約束である知識チートも設定の枠外である時代に転生してしまってはどうにもならない。

どうしたものかと両家の当主が広間に訪れるまでの間、ラックは内心頭を抱えるのであった。

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