第5話 ポンコツ騎士見習い

推しである「マリー」の母たるサラの姿を至近距離で直視したことにより、胸の内から湧き上がる尊さを抑えきれずに思わずサラへと祈りを捧げたラック。

そんな彼の姿を見てサラは困惑し、アルバートは呆然としていた。


そんな中、これまでの一連のやり取りに唯一参加していなかった少女、セラが敬虔な信徒のように祈るラックの首根をつかまえて困惑するサラから距離を離させた。


「いったい、どういうつもりだ?」


ジロリとジト目でラックを力強く見つめるセラの視線はとてもではないが好意的なものは見られない。

元より競い合う両家の従者。しかも目の前の少女は代々ルファス家に仕える騎士の家系に生まれ、彼女自身も将来は騎士足らんと幼い時分から理想に手が届くように務めてきていた。

とはいえ、まだセラもラックたちと同じ子供であり、以下に騎士の有り様を体現せんと努めたところで子供らしい感情は抜け難い。

例えば、主の自慢となるべく参加した競技でこれまでの結果から慢心し、不覚をとった相手が目の前にいることへの不満と苛立ちなどから、こうしてラックに絡んできたという行動も感じ取れなくはない。


「どういうつもりとは?」


「惚けるな! サラ様を前にしていきなり祈り出すとは何事だ。

もちろん、サラ様は神々のように美しく祈りを捧げたくなる気持ちはわからなくないがグレイス家の使用人がそんな行為を心からするとも思えん

大方先程の競技の結果だけでは飽き足らずにそ、その、わ、私たちを辱めるためにあのような行為に出たのであろう!」


「ええ……。途中まですごく真面目な感じだったのに、後半はどうしたらその発想に至ることが出来たのかさっぱり分からないんだが」


「くっ! そうやってまた分からない振りなど……。

グレイス家の人間は聞いていた通りやはり卑劣で悪辣だ」


「いや、むしろ分からないのはお前の思考回路だよ!

卑劣で悪辣って何もしてないのに言いがかりをつけるにしても酷すぎるだろ!」


「まさか、己の中に存在する邪悪な心に気づいてすらいないとは。

日々剣の修行で鍛えた私の目でみて判断したのだ。競技中の妨害といい、人の嫌がることを躊躇なく行えるなんて良心の呵責は貴様には無いのか!」


「いや、ないから。邪悪な心とかないから。

というかそんな考えに至るお前の目は節穴だよ!

競技中の妨害とかやらなきゃ勝てないなら普通やるだろ! そんなんで良心の呵責感じてたら毎日食べる食事を目の前にして犠牲になった生命全てに罪悪感を覚えないといけねえよ!」


「む、言われてみれば確かに食事をするのに祈りを行っても罪悪感を覚えたことは私もないな

むしろ早く祈りの言葉が終わって食事を口にしたいとばかり考えている」


「さてはお前ポンコツだな?」


セラから呼吸をするように自然と発せられる天然のボケに思わず前世の記憶に引きづられてキレのあるなツッコミを入れるラックだったが、そこでようやく今が互いの主の前であることに気がついた。

幼い身体に精神が引きづられて冷静な判断が出来なかった結果、アルバートとサラの2人は……。


「ぷっ、ふふふふふ」


「あっ、はっはっはっ!」


ラックとセラのやり取りを見て堪えきれなくなったのか笑い声を室内に響かせるのであった。

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