第4話 推しの母ってつまり聖母では?

アルバートとラックの穏やかな空気を壊すように険しい顔つきで室内に2人の少女が入ってくる。

1人は不満を、もう1人は悔しさを表情に色濃く滲ませた少女たち。


「なんでお前がここにいるんだよ、サラ」


「あら? ダメなの?これでも私は一応グレイス家に招かれた来客だったと記憶してるのだけど」


「なにが来客だよ。競技のついでに行われる父上たちの国営事業の意見交換の間、ケーニッヒ様のおまけとして我が家に逗留してるだけだろ?

お前を招いたつもりは無いぞ」


「あら、ごめんなさい。

アルバートに招かれた覚えはなくてもあなたのお父上であるグレイス家当主、レグルス様には私も是非起こし下さいと手紙を頂いてたの

グレイス家の次期当主様は来客のもてなし方も学んでいないのかしら?」


「なんだと!」


売り言葉に買い言葉と徐々に険悪な空気が漂う室内。

ラックは残されたもう一人の少女にこの空気を変えるための助けを視線で求めるが、少女は視線が交わると恨めしげに目を細めてラックを見つめるのであった。


誰も頼りにならないと判断したラックはいそいそとベッドから起き上がり言い争いを続ける主と相手の間に体を挟んだ。


「アルバート様。それくらいにしておきましょう。

曲がりなりにも今の彼女たちはグレイス家の来客。

サラ様が口にされたようにしっかりともてなしをしてこそグレイス家の品位を示すことができます」


「む……まあ、そうだな」


ラックの注意を聞いてヒートアップした頭が冷えたのかアルバートは少しずつ落ち着きを取り戻した。


「それと、サラ様も……」


あまり主であるアルバートを挑発しないで欲しいと口にしようとしたところでラックの言葉は途切れた。

視線をサラへと向けたラックに起こったのは激しい衝撃と心臓の高鳴り。

肩よりも僅かに長い灼熱の炎を想起させる紅い髪。キリッとつり上がった瞳はその態度も相まって傲岸不遜な印象を抱かせる。

だが、それを補ってあまりある美貌と魅力が目の前の少女からは感じられる。


違いといえば瞳の色くらいだろうか?

当然といえば当然だかある意味で推しの源流となるサラの姿を前世の記憶を取り戻して初めて、しかも手の届くほどの至近距離で直視したラックの胸中には抑えきれない喜びと感動が湧き上がった。


「と」


「と?」


「尊ぇ……マジかぁ……。

リアルに推しと瓜二つの容姿した若い頃の母親を目の当たりにできるとか尊すぎるだろ」


推しの母であるサラの姿を目の当たりにし、尊さのあまりに両膝を折り神に祈りを捧げる姿勢を取るのであった。

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