第3話 推しがいない世界
和也、もといラックは今自分がいる世界が前世で推していた「マリー」が存在したスターライトプリンセスの世界だと気がつくも、奇しくも一世代その時代がズレていた。
しかも転生したラックのこれまでの記憶はかつて見た「マリー」の両親は仲睦まじいという設定からかけ離れたものであり、やがて推しの両親となるべきアルバートとサラの関係は対立する両家の影響をとてつもなく受けているものだった。
事実、今こうしてラックが使用人用の建屋で寝ていたのも、元を辿ればどちらが王家の役に立てるのかを競い合う一環として催された両家対抗の競技が原因であった。
次代の両家を背負い立つ当主候補による対立。幼いころから競い合わせ、対抗心を刺激することにより、次の世代に時代が移り変わってもそれぞれの家が保有する力を維持することを目的として古くから定期的に開かれる催しであった。
念に四度開かれるその催しで冬季の時期に開かれた今回の競技は魔術を用いることも前提とした雪球勝負であった。
ラックはその競技の中、相手であるルファス家の使用人への競技中の妨害を目的に動いていたのだが、猪突猛進な性格をした相手従者が痺れを切らし、身体強化魔術で底上げされた肉体で硬く固められた雪球を剛速球と共に頭部へとぶつけられ、無様にも気を失いこうして使用人用の建屋に運ばれたのだ。
「そういえば、アルバート様。競技の結果はどうなったのですか?」
気になることは山ほどあり、先ほどは驚愕の事実から取り乱したラックだったが、あまり変な言動を重ねて怪しまれるのも不味いと思い、目の前にいるアルバートに自分たちが参加していた競技の結果を問いかけた。
「ああ! そうだったな! なに、お前も気になっているだろうと思って結果を伝えにそもそも来たんだった。
よくやったぞ、ラック。お前が俺の指示通りにルファス家のセラを抑えてくれたおかげで今回の競技は我がグレイス家の勝利だ!」
鼻高々といった様子でラックに結果を報告するアルバート。それもそのはず、ラックの記憶が確かならここ一年ほどグレイス家はルファス家との競技に負け越していたからだ。
原因は先ほどアルバートが口にしたセラというルファス家の一人の従者。昨年、気力に目覚めた彼の従者は早熟ながらも開花させたその才能をもってまだ気力、魔力の成長が未熟なアルバート家の若手達の前に悉く立ちはだかったのだ。
結果、この一年のグレイス家は敗退に敗退を重ねて辛酸を舐め続けることとなっていた。
「それはよかった……。なら、私も頑張ったかいがあったというものです」
嬉しそうな主の姿を見てラックもまたホッと胸を撫で下ろす。それは今回の競技に掛ける主の思いや参加する他の同僚たちの熱意を感じていたからだ。
「というか、ラック。さっきから言いたかったのだが。なんなんだその口調?
前から言ってるだろう。父上たちがいるときならともかく、俺たちしかいない時ぐらいは普通に話してくれと」
そう言われてラックはハッとする。確かに、今アルバートが口にしたようにラックはその肩書きから対等な友人が少ない彼と最も近しい同姓として何かと気に入られており、大人たちがいないときに限って肩書きなどを抜きにした関係を常々求められていたのだ。
つい、先ほど思い出した前世の自分の記憶と今の自分の立場に引きづられて忘れていたため、若干不満そうに頬を膨らませるアルバートの希望に沿うように口調を改める。
「悪かったよ、アルバート。これでいいか?」
「まったく、焦ったぞ。さっきからラックと話していてなんだかまるで父上たちと話しているような気分になって気持ちが悪かった」
「あはは……それは悪い」
アルバートからの指摘にドキッとさせられるラックであったがまさか、自分がかつては今の彼の父親と同じ年齢だったなどと口が裂けても言えるはずもなく笑って誤魔化すことにした。
「それにしても、競技が終わったときのルファス家の奴らの顔をお前にも見せてやりたかった。
あいつらの悔しそうな顔ときたら、まるで自分たちが負けるだなんて想像もしていなかったようだからな。
ククク。サラのやつめ、審判者が俺たちの勝利を宣言した時の顔ときたら。当分の間あの顔を思い出すだけで何個でもパンを食えるぞ」
よほどその時の光景がツボに入ったのかくつくつと湧き上がる笑いを堪えるアルバート。
ラックも競技が始まる前、今回対峙したルファス家の従者であるセラから挑発を受けていたためそのことを思い出すと今回の結果がグレイス家の勝利で終わったと思うと胸がスッとする想いだった。
そんな風にして二人が今回の競技の余韻に浸っている中、その空気を壊すかのように勢いよく室内の扉が開かれた。
「……ふぅん。たかだか一回まぐれの勝ちを拾ったくらいで、ずいぶんと楽しそうにしているのね、あなたたち」
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