第二章 ~『冒険者組合のケイト』~
冒険者組合。酒場と併設されたその建物は活気で満ち溢れていた。麦酒片手に談笑する者、依頼書をジッと見つめる者、多くの冒険者がこの場所に集まっていた。
「アルクじゃん。久しぶり♪」
冒険者組合の受付に見知った女性がいた。茶色の髪とクリッとした瞳、そして人懐っこい顔はまるで子犬のようだ。
「ケイト、なぜお前が受付を?」
「それ聞いちゃうの?」
「気になるからな」
ケイトは少し前まで冒険者をしていた。それが受付嬢に転職しているのだから、理由を問うのも当然だった。
「ほら、私、駆け出し冒険者でしょ。稼げる仕事がなくてさ。そのことを組合に相談したら、受付嬢やらないかと誘われたの」
「就職先が見つかってよかったじゃないか」
「ありがと。これで三食、水とパンだけの生活から脱出できるわ」
「お前も苦労してたんだな……」
等級の低い冒険者ではその日暮らしさえままならないことが多い。アルクは仲間の冒険者が安定した職に就けたことを自分のことのように喜んだ。
「血行もよくなったから、ほら、美人になったでしょ」
「ははは」
「アルクったら、笑ってごまかすんだから……どうせマリアと比べたらブスですよーだ」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「口にしなくても考えていることくらい分かるよ。私たちの付き合いも長いんだから」
「だな」
ケイトとアルクは弱者同士、気の合う部分が多かった。互いに同じようなコンプレックスを持っていたからこそ、二人は心を許せる友人同士だった。
「ねぇ、明日は私の休暇日なんだけどさ、弱いもの同士、薬草採集のクエストで小遣い稼ぎしない?」
「弱いもの同士か……」
「本当のことでしょ。薬草採集が嫌ならスライム狩りでもいいよ」
「止めておくよ。なにせ弱者の汚名は返上したからな」
「返上?」
「これを見てみろ」
アルクは亜空間への穴を開けると、そこから討ち取った魔物たちの魔石を取り出す。メタリックスライムやゴブリンチャンピオンなどの魔石は、ケイトを驚かせるに十分な衝撃があった。
「俺が倒した魔物の魔石だ。今日は換金のために来たんだよ」
「あ、あれ? でもジニスたちとパーティを解消したと聞いたけど……まさか一人で倒したの?」
「もちろん」
「嘘だぁ」
「本当だって。この顔を見てみろ」
嘘を吐くと目が左右に揺れたり、瞬きが多くなるなどの兆候を見せる。このような嘘の兆候を知っておけば、逆に自分が嘘を吐いていないと証明することにも役立てることができる。
アルクはジッとケイトの顔を見据え、視線を交える。ずっと見られているのが恥ずかしかったのか、彼女は白い頬を赤く染めて、視線をずらした。
「わ、分かったわよ。私の負け。アルクが一人で倒したって信じるわ」
「随分とあっさり信じてくれるんだな」
「まぁ、アルクはやればできる奴だって知っているし、それに何よりジニスたちは、二人だけになってからクエストで失敗続きだって聞いていたから。それってアルクの実力がパーティに大きく貢献していたって証明でしょ」
「それは買いかぶりだ。それにしてもあの二人が失敗か……」
圧倒的な実力を持つジニスたちがクエストに失敗したと聞き、アルクは信じられないと耳を疑う。
(二人の間に何かあったのか?)
復讐のチャンスに繋がるかもしれないと、活用法を考えている内に、カウンターには金貨が詰まった皮袋が置かれていた。
「これが魔石の代金ね。すっごい。大金持ちじゃん」
「羨ましいだろ?」
「とっても。今度、何かご馳走してね」
「ああ。楽しみにしてろ」
当面の間、資金に困ることはなくなった。さらにアルクは金だけでなく、次につながる種を蒔いていた。
(これで冒険者組合に俺が強者だと伝わったはずだ。等級の昇格に、高難易度のクエスト依頼がくることも期待できる)
さらに強くなるためにはより強敵と戦う必要がある。計画が順調に進んでいることに、アルクは達成感を覚えるのだった。
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