第二章 ~『メタリックスライムの巣』~


 メタリックスライムの群れを発見したアルクは、どうやって狩ろうかと頭の中で算段を立てる。


(すぐに襲うか……いや、そんなことをしては一匹を仕留めても、他のスライムに逃げられる。こういうときは頭を使おう)


 アルクは遠目からメタリックスライムたちを観察する。彼らが動くのをただひたすらに待った。


(スライムも人間と同じだ。群れていると慢心する。注意力は散漫になり、警戒心も薄れる)


 水遊びに疲れたメタリックスライムたちはとうとう動き始める。彼らは尋常でないスピードで、丘陵地を駆け抜けていく。決して自分たちに追いつける者はいないという自負が見え隠れしていた。


 だがメタリックスライムから身体能力を奪い取ったアルクなら追い付ける。彼は一定の距離を保ちながら、しっかりと彼らの背中から離れなかった。


(ここがあいつらの巣か……)


 メタリックスライムたちはジメジメとした洞窟に帰っていく。岩肌に囲まれた洞窟の中は鍾乳洞になっており、水がポタポタと落ちる音が反響していた。


(メタリックスライムたちは俺に後を付けられていることに気づいていない。ただそれも無理はない。人の心は危険な場所へ向かうよりも帰る方が油断するようにできているからな)


 治安の悪い飲み屋街に向かう時、人は危険がないかと心配する。しかし店から帰るときにはもう大丈夫だと安心してしまう。それは人の脳が一度安全だと認識すると、警戒を解いても良いと命じるようにできているからだ。


(あとは手順さえ間違えなければ一網打尽だ)


 洞窟を進んだ先には、広い空間が広がっていた。岩陰から様子を伺うと、メタリックスライムたちが楽しそうに動き回っている。


(数十匹、いや百匹近くいる。敢えてすぐには刈らずに、巣まで案内させて正解だった……)


「おい、俺はここにいるぞ!」


 アルクはメタリックスライムたちの前に姿を現し、名乗りを上げる。


 声が反響し、洞窟中に響き渡ると、不意を突かれた敵襲にスライムたちは慌てる。ほとんどのスライムは彼から逃げようとするが、一部の好戦的なスライムはアルクへと飛び掛かってくる


「残念だがメタリックスライムに攻撃力はない」


 体当たりをしようと跳ねたメタリックスライムをアルクは掴み取る。冷たい鉄の感触が手の平に広がる。


「スラスラスラ(俺に向かってくるとはたいした度胸だ。命が惜しくないのか?)」

「スラースラー(僕は命なんか惜しくない。仲間の方が大切なんだ)」

「スラスラ(なるほど。そういうタイプの性格か……)」


 仲間が大切。それは随分と青臭いが、行動心理学でも仲間や部下に感謝されることに無上の喜びを覚えるタイプがいることは知られている。


 この手のタイプはリーダーシップがあり、自己犠牲の精神が強いのが特徴で、身近な例だと部下を早く帰らせるために自分が深夜まで残業するような上司は、この区分に当てはまる


(この手のタイプは本心から仲間のことを大切だと思っている。嘘の可能性は限りなく低い)


「スラスラスラ(お前の大切なモノは仲間だな)」


 アルクはメンタリストの職業スキルを使い、メタリックスライムから身体能力を奪い取る。成功したと証明するように、彼の身体はさらに軽くなった。


「さてと、逃げ場はないし、メタリックスライム相手なら負ける心配もない。ここからは空間魔法でチェックメイトだな」


 アルクは亜空間への入り口を開き、穴の大きさをじわじわと大きくしていく。逃げ場はなく、迫ってくる空間魔法に、メタリックスライムたちは、追い詰められていく。


「スライムたちを捕獲したら、一匹ずつ丁寧に身体能力を奪っていく。ここにいる百体のメタリックスライムのスピードがすべて俺のものになるんだ」


 亜空間へと繋がる穴は広間を覆いつくし、メタリックスライムたちをすべて飲み込む。やり遂げたことを確認したアルクは、その達成感に頬を緩めるのだった。

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