第124話 樹とアリアの日々

 史上初のSSランク認定を受けた翌日、樹は昼頃に起きだした。


「おはよう」

「おはようございます。今日はいつも通りの時間ですね」


 ディルクが微笑みながら言った。


「遅くて悪かったな」

「いえ、よく寝れたようで何よりです」

「ありがとうさん」


 樹は、リビングへと降りると、アリアと共に、朝食というか昼食というか、曖昧な食事をする。


「樹さまは、もっと規則正しい生活をした方がよろしいですよ」

「うん、それは分かっているんだけどね、事務作業が立て込んでてね」


 魔術学院の学院長としての決済書類が山積みになっていたのだ。


「そういえば、もうすぐ、魔術競技祭か」

「そうですよ。お忘れですか?」


 魔術技術の向上を目的とした、クラス対抗の魔術競技祭が、ウェールズ魔術学院で開催される運びとなっていた。

魔術競技祭と言っても、内容は魔術を用いた模擬戦闘がメインになっている。


「そういえば、招待状も来ていたもんな」

「はい、お疲れでしょうけど、顔はだしませんと」

「そうだな、副学院長なら、アリアもいくだろ?」

「樹さまが行かれるのでしたら」

「俺基準かい!」


 アリアは、樹のメイドとしての任務が最優先なのだから当然といえば、それまでなのだが。


「よし、じゃあ、一緒に行こうか」

「承知しました」


 確か、樹にも開会式の余興として、模擬戦の依頼が来ていた。


「でも、開会式で俺も模擬戦やるのか」

「え、その依頼、私にも来ていました」

「マジか。ってことは、模擬戦の相手って……?」

「十中八九私たちの対戦になりますね」


 公爵が、学生の勉強になればと、最強と名高い二人を対戦させることに決めたらしい。


「大丈夫かよ……」

「どういう意味ですか?」

「いや、俺たちが本気でやり合ったら、次にやる学生たちの立ち場を思うとな」

「ああ、なるほど」


 なにせ、樹たちが本気でやったら、街、いや、国が一つ吹き飛ぶと言っても過言ではない。

そんな姿を見せつけられたら、学生たちは、戦意を喪失しかねない。


「まあ、そんなに考えなくてもいいか」

「そうですね。ほどほどにやりましょう」


 果たして、この二人の程々がどれほどのものなのか、知る者はまだいなかった。


「さて、俺は残っている仕事を片付けようかな」


 昼食を取り終えた樹は、立ち上がった。


「でしたら、お飲みものをお持ちします」

「おう、ありがとうな」


 樹は、自分の書斎へと向かった。

中に入り、山積みになっている書類に目を通していく。


「相変わらず、散らかっていますね。お片付けしましょうか?」

「いや、ここはいい。自分でやる」

「私、その言葉二週間聞いていますけど」


 アリアが紅茶を机の上に置きながら言った。


「アリアも最近、小言が多くなって来たよな。セザールに似てきたんじゃないか?」

「それは、旦那様がだらしないからです」

「分かったから。片付けるから」

「絶対ですよ」


 そう言うと、アリアは樹の書斎を後にした。

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