第112話 樹たちの慰安旅行④

 目が覚めるとシルフィルの顔が目の前にあった。


「おう、おはよう」

「もう、飯の時間だぞ」


 樹は体を起こした。

宿屋の女将が部屋まで食事を運んでくれる。

目の前には豪華な料理が並んでいた。


「おお、これは美味そうだな」

「食べようマスター」

「だな」

「「いただきます」」


 シルフィルと対面するような形で食事を取る。


「流石は美味いものばかりだな」


 シルフィルが食事を夢中で頬張っている。


「おい、ゆっくり味わって食えよ。誰も取らないんだから」

「マスターはもっと美味そうに食ったらどうだ?」

「ほっとけ」


 そこから、他愛もない話をしながら豪華な食事を楽しんだ。


「飯食ったらもう一度、温泉入ろうかな」

「私も行くぞ。てか、部屋の風呂でもいいんじゃないか?」

「それもそうだな。かけ流しらしいし。ゆっくり出来るかもな」

「じゃあ、一緒に」

「入らないわ」

「ぶー」


 シルフィルは頬を膨らませていた。


「そんなに可愛い顔しても無駄だ」

「アリアさんとは入るのに私とは入ってくれないんだ」

「な、何でそれをって、あれは、アリアが勝手に」

「ふーん」


 シルフィルは何やら企んだような表情をしていた。


「さて、ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」


 宿屋の仲居により、食事が下げられる。


「風呂、先に入ってもいいか?」

「どうぞどうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 樹は風呂の前で服を脱ぐと軽く体を流し、湯舟に浸かった。


「おお、ここも景色いいんだな」

「ですね」

「だよな。ってなんで入って来てんだよ」

「アリアさんが勝手に入っていいなら私もいいかなって」


 シルフィルは悪戯っぽい微笑みを浮かべた。


「俺は出るぞ」

「まあまあ、そんなに固いこと言わずに、お背中流しますよ」

「自分で流せるよ」


 樹は湯舟を上がった。


「はい、お風呂どうぞ。俺は出るよ」

「はぁ、つまらないなマスター」

「ゆっくり入ってくれ」

「覗いてもいいぞ」

「覗かないから安心して入れ」


 樹は体を拭くと部屋に戻った。

特にやることもないので畳敷の部屋に横になる。


「たまには旅行もいいもんだな」


 30分ほど経っただろうか。

シルフィルが風呂から出てきた。


「本当に覗かないんだな」

「覗きの趣味はないんでね」

「ふぁああ」


 シルフィルが大きなあくびをした。


「寝るか?」

「うん、でもその前に」


 シルフィルが樹に抱きついた。


「何のつもりだ?」

「マナの補給だ。今日はマナを使い過ぎてしまったみたいだ」

「おう、それはすまない。マナ、足りなかったか?」

「マスターは悪くないよ。私が使い過ぎただけ」

「そうか。しっかりしてくれ」


 10分ほど樹に抱き着いた後、シルフィルは離れた。


「補給完了っと。寝ようぜ」

「うん、寝ようか」


 樹とシルフィルはベッドのある部屋に移動すると、ベッドに横になった。


「電気消すぞ」

「おう」


 電気を消すと一気に睡魔に襲われた。

温泉上りはやたら眠くなるのである。

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