第113話 樹たちの慰安旅行⑤

 楽しい時間というのは一瞬で過ぎ去っていくものだ。

今日が慰安旅行の最終日となった。


「マスター、起きろ。いつまで寝てんだ」

「う、もう、朝か……」

「朝というかもう昼だ」

「え、ヤバ。もう、チェックアウトしなきゃじゃん」


 今日の昼過ぎにチェックアウトとなっていた。

樹は荷物をまとめると部屋を出た。


「みんなおはよう」


 他の皆は既にチェックアウトの手続きを終えていたようであった。


「チェックアウトお願いします」


 樹は宿屋の女将に鍵を渡した。


「かしこまりました」


 女将がチェックアウトの手続きをしてくれる。


「さて、帰ろうか」


 樹もチェックアウトが終わったところで言った。


「「「はい」」」


「またのお越しをお待ちしております」


 女将に見送られ、外に出る。


「流石にここで、転移魔法を使う訳にもいかないな」


 観光地というだけのことはあって、人目が多い。

樹たちは少し歩いて、人目が少ない所まで移動した。


「さて、この辺で転移魔法使っちゃいましょうか。皆、俺の周りに集まってくれ」

「「「はい」」」


 皆な揃っていることを確認すると転移魔法を起動させる。


『転移』


 一瞬にして王都の屋敷の庭に転移した。


「よし、成功だな」

「相変わらず凄いな……」


 クリストフ夫妻は感心していた。


「クリストフさん、オーセールまで送っていきますよ」

「そうか、悪いな」

「いえ、誘ったのは僕の方ですから気にしないでください」

「じゃあ、頼めるか」

「分かりました。僕に捕まってください」


 その言葉でクリストフ夫妻は樹の手に捕まった。


『転移』


 一瞬で、オーセールのクリストフ邸の中庭に転移した。


「本当に、馬車で移動するのが馬鹿らしくなるな」

「そうですわね」


 クリストフ夫妻が優しく笑った。


「転移魔法にはバカみたいな魔力が必要ですからね」


 樹は苦笑いした。


「では、僕はこれで失礼します」

「おう、また誘ってくれ」

「もちろんです。ではまた」


 樹は再び、転移魔法を展開し、王都の屋敷に戻る。


「ただいまー」

「おかえりなさいませ」


 帰るとセザールが出迎えてくれた。


「今回はこのような最高なお暇を頂き、ありがとうございました」

「いいってことよ。セザールも休めたなら良かったよ」

「はい、充分すぎるほど羽を伸ばさせて頂きました」

「それは何よりだよ。また行こうな」

「はい。これで、また仕事も頑張れます」

「あんまり働き過ぎるなよ。セザールももう、若くないんだから」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 セザールは微笑んだ。


「じゃあ、ちょっと俺は王宮に行ってくるよ。陛下にも戻ったことを伝えないといけないし」

「左様でございますか。お気をつけていってらっしゃいませ」


 セザールに見送られ、樹は屋敷を後にした。


「私なんかより、旦那様の方がよっぽど働いていますよ。お疲れ様です」


 そう呟いて口角をわずかに上げるセザールであった。

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