閑話 アリア、樹との出会い

 彼女の名はアリア、元最強の冒険者と言われた女だ。

そんな彼女はある時を境に前線から姿を消した。


「アリア、この者のメイド長として赴任してもらえないか?」


 そう言って陛下は一枚の資料を渡してきた。


「綾瀬樹、Sランク冒険者ですか……」

「ああ、なかなか見どころのあるやつでな」

「分かりました」


 アリアは冒険者の座を退いた後、メイドになっていたのだ。


 新しい環境というのは不安や期待が付き物である。


「おや、あなたがメイド長さんですね」


 指示を受けた屋敷へと入ると初老の男性が立っていた。


「はい、アリアと申します」

「私、家令を務めますセザールと申します」


 燕尾服姿のその男性は綺麗に一礼した。


「どうぞよろしく」

「よろしくお願いします」


 優しそうな人が上司であることが分かり、アリアは一安心した。


「もう少しで旦那様がいらっしゃいます」

「承知しました」


 そのまま待つこと数分、再び、屋敷の玄関が開かれた。

現れたのはまだ20歳にも満たないだろう少年だった。

しかし、纏っている雰囲気が只者の雰囲気ではない。

それにはセザールさんも気づいた様子だった。


「私、綾瀬家の家令を務めますセザールと申します」

「メイド長を務めますアリアと申します」


 使用人がそれぞれ挨拶をした。


「綾瀬樹だ。よろしくな」


 旦那様は微笑みを浮かべた。


「ところで、二人のステータスを見てもいいか?」


 旦那様が言った。

アリアとしては別にみられて困ることは何もないため了承した。

セザールさんも同じく了承していた。

しかし、樹さまはアリアのステータスを見ると表情を変え、王宮へと飛び出して行ってっしまった。


 それからの出来事はアリアの人生を大きく変化させるものだった。


「アリアは、もう一度冒険者をやるつもりはないか? 俺とパーティを組んで欲しい」


 アリアは驚いた。

この男は誰ともパーティを組まないことで有名だと陛下が言っていたのだ。


「少し、お時間を頂いても?」

「ああ、もちろんだ」


 正直、アリアは悩んだ。

もう、冒険者に戻るつもりはなかった。

しかし、心のどこかではもう一度やりたいという思いがあったのだろう。

すぐに決心は固まった。


「私、もう一度冒険者をやりたいと思います」

「そうか。ありがとう」


 樹さまは喜んでいた。


「再冒険者登録をする必要があるのですが」

「うん、明日にでも行こう」


 アリアは再び冒険者となるために手続き、再冒険者登録をした。

ギルマスの計らいでSランク冒険者のままで手続きをしてくれた。


「樹さま、私を冒険者に戻してくれてありがとうございます」

「いや、楽しそうで何よりだよ。無理矢理冒険者の道に戻しっちゃったんじゃないかと思っていたからな」


 そう言って樹は微笑んだ。


「本当に、楽しいです。この生活は」

 

 アリアも満面の笑みを浮かべた。


 こうして樹とアリアの異世界世直しは第一歩を踏み出したのであった。



【あとがき】

 今回は閑話として樹とアリアの出会いをアリアの目線で書いてみました。

この作品のメインヒロインとなるアリアが樹をどう見ているのか難しくもありましたが、シャルに引き続き、ヒロイン目線も楽しいものです。

読者の皆様も楽しんでいただけましたら幸いです。

 あとがき失礼しました。

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