第93話 再びオーセールの街へ

 樹はクリストフさんの元を訪れるために、オーセルの街に来ていた。


「ここも久々に来たけど。やっぱりいい街だな」


 クリストフ家に行く前にこの街の領主であるテオドールさんのもとを訪れていた。


「やあ、樹君、久しいな」

「ご無沙汰しております。お元気そうで」

「ああ、樹君もご活躍じゃないか。噂は届いておるぞ」

「そ、そうなんですね。いい噂だといいのですが」

「なに、オリエンス王国の姫様をコテンパンに負かせたそうじゃないか」


 そう言うとテオドールは豪快に笑った。


「やっぱり、悪い方の噂でしたか」

「君も中々肝が座っておるわい。ところで、今日は何かのようでうちの街に来たのかね?」

「はい。ちょっとクリストフさんに聞きたいことがありまして」

「おお、そうだったか。一人で来たのか?」

「はい、今日は一人です。ぞろぞろ来るような用件では無かったものですから」


 樹は一通りの説明をした。


「あら、樹さま、いらしてたの」

「おう、フェラリーも元気そうだな」

「はい、おかげさまで」


 相変わらず、元気が有り余っているようなフェラリーとテオドール。

樹はしばらく世間話に花を咲かせるとお暇することにした。


「じゃあ、僕はこの辺で失礼しますよ」


 樹はカップに残っていた紅茶を飲み干すと席を立とうとした。


「ああ、悪いが、クリストフさんの所に行くならこれを届けてくれんか」


 テオドールは紙袋を取り出すと樹に渡した。


「それは構いませんが、これは?」

「いい紅茶の茶葉が手の入ったからクリストフさんとこの奥さんにと思ってな」

「そうですか。では、確かにお預かりします」

「うむ、頼んだ」


 樹はオーセルの領主邸を後にした。

そこから数分歩いてクリストフ家の前に到着した。

玄関をたたくと従者のメイドが出迎えてくれた。


「クリストフさんに会いたい。綾瀬樹が来たと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 そのまま待たされること数分。


「お待たせいたしました。旦那様がお会いになられるとのことです。こちらへどうぞ」


 そう言うと樹は応接間に通された。


「いやぁ、お待たせして申し訳ない」


 柔和な笑みを浮かべながらクリストフさんが応接間に入ってきた。


「いえ、こちらこそ突然すみません」

「いいんじゃよ。可愛い孫娘の恩人じゃ」

「あ、これ、テオドールさんからの預かりものです。カミーユさんにとのことです」

「おお、すまんな。ありがとう」


 クリストフは樹から紙袋を受け取ると自分の横に置いた。


「それで、今日は何の用件かな?」

「はい、クリストフさんに魔法というかスキルに関することでお聞きしたいことがありまして」

「ほう、ワシに分かることなら協力するぞ」


 クリストフさんの知識は王宮の宮廷魔法師顔負けだと陛下の太鼓判が押されているほどだ。

樹は先日、スキルがジャミングされたことをクリストフさんに相談しようとここまで来たのだ。

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