第92話 馬鹿はどこにでも

 樹とアリアから見るその少女は凄く怯えた表情をしているように見えた。


「お前ら、そんぐらいにしとけよ」


 樹がドスの効いた声で言い放った。


「何だお前。邪魔すると痛い目に遭うぞ」


 一人の男が気色悪い笑を浮かべながら言った。


「メイドを連れているって事はお前、貴族か? だったら、金目の物置いてけよ」

「はぁぁ」


 樹は深いため息を吐いた。


「馬鹿はどこにでも居るんだな……」

「何だと!!」


 男は樹の胸ぐらを掴んだ。

樹は男の手首を掴むと思い切り捻り上げた。


「痛い痛い痛い……」

「そりゃ、痛いだろうな。痛くしてるんだから」


 樹は手を離すとそのまま後ろへ突き飛ばした。


「アリア、程々にしとけよ」


 アリアは胸を触ろうとしてきた男に回し蹴りをお見舞いしている所だった。


「はい」

「き、貴様ら何もんだ……」

「馬鹿に名乗る名前はねぇ。さっさと失せな」

「おい、行くぞ」


 男たちは足早に逃げ帰ってしまった。


「おい、大丈夫か?」


 樹は少女に手を差し伸べた。


「はい。助けてくれてありがとうございます」


 立ち上がると少女はお礼を言った。

その時、紫色の髪の毛が風に靡いた。


「紫色の髪、初めてみたな」

「珍しいですからね」


 綺麗な紫色の髪の毛を胸の位置まで伸ばしていた。

しかし、着ているものや履いているものはどこか貧しいように感じた。


「あの、不気味じゃないんですか? この髪の色」

「不気味? 何でた? 綺麗な紫色じゃないか」

「この国では紫色の髪の毛は不気味な色とされ、嫌われる事が多いんです」


 アリアが小声で教えてくれた。


「失礼は承知だが、君のステータスを見せてもらっても構わないか?」

「え、あ、はい。どうぞ」


 樹は『鑑定』スキルを発動させた。


「うっわ……」


 スキルを発動させた直後、樹は思わず目を押さえた。


「樹さま、どうなさいました?」


 アリアが心配そうに覗き込んで来た。


「いや、スキルがジャミングされて発動出来ないし、鑑定しようとしても何も見えないんだ」


 樹はまだ目を押さえていた。


「スキルをジャミング? そんな事聞いたこともありません」

「ああ、俺もこんな事は初めてだ。仕方ない、戻るぞ」


 樹とアリアはその少女を連れてシャルたちが待つ場所へと向かった。


「旦那様、その方は……?」

「ああ、変な男どもに襲われて居たから助けてきた。名前も何も分からないから、ギルドで保護してもらうしかないな」

「そう、なりますね」

「悪いな、せっかくの祭りだったのに」

「いえ、私たち楽しめましたから」


 そう言ってシャルとアルマは微笑んだ。


「あ、メラニさん。ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

 

 ギルドに入ると馴染みの受付嬢メラニさんに声をかける。


「この子、ギルドで保護して貰えないか? 名前も何も分からないだが。俺のスキルもジャミングされちまったしな」

「樹さんほどのスキルをジャミングですか……話は分かりました。責任をもって」

「よろしく頼んだ」


 こうして樹たちはギルドにその少女を保護してもらうと屋敷へと戻るのであった。


 

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