第32話 元エルフの里の現状

 元エルフの里へと到着した樹たちは馬車を降りた。


「ここか。なんか酷い有様だな」

「ええ、そうですね」


 樹たちの前に広がっている光景は寂れた集落という感じだった。

家屋はボロボロで人が住んでいる形跡はどこにも無い。

道も舗装されている訳ではなく、どこを歩けば正解かも定かではない。


「ここのエルフは全滅したのか……」

「確か、言っていましたね」

「とりあえず、周りを調べてみるか」

「はい」


 その時、誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。


「若者よ、ここに何か用かね?」


 突如後ろから、老人の優しい声がした。


「はい?」


 樹たちは振り返った。

そこにはエルフ特有の長い耳をした初老の男が立っていた。


「我々は王都から調査に来ました樹と申します」

「アリアです」

「あなたは、ここに住んでいる方ですか?」


 樹は初老の男に尋ねた。


「これはご丁寧に。申し遅れました。私、ブレーズと申します。以前はここに住んでおりましたが、今は別のエルフの里に身を寄せております」

「そうでしたか。ブレーズさんはなぜここに?」

「なに、少し昔が懐かしくなりましてな。ちょっと様子を見にきたのですが、これは……」


 ブレーズさんはここであった参事を知らないようだった。


「ブレーズさんがここを離れたのはどれくらい前ですか?」

「確か、もう五年になりますかな」

「いいですか、落ち着いて聞いてくださいね」


 樹はここで起こった参事をブレーズさんに説明した。


「そう、だったのですね。通りで旧友と連絡が付かないと思っておりました」


 ブレーズさんは少し目を伏せた。


「それで、その組織のアジトがここの周辺にあるとの情報が入りまして、王都ギルド本部より調査に参った次第です」

「本当なのですか!?」

「ええ、恐らく。この辺りは危険ですのでお戻りください」

「旧友の敵、取って頂けますか?」

「もちろん、我々にお任せ下さい。必ず、組織を潰します」


 樹とアリアは目を合わせた。


「では、私はこれで失礼します。若者よ、死ぬなよ」

「はい、僕にも背負っているものが、守らなきゃいけない人たちがいますから、こんな所で死ねませんよ」

「そうか、頼もしいの」


 そう言うとブレーズさんは目を細くして優しく笑った。


「行こうか」

「はい」


 樹はアリアと共に寂れた集落へと足を踏み入れた。


「本当に誰も居ないな。本当にアジトがあるのか?」

「地下にも何も無いようですしね」


 一通り、調べ終わったが特に異常は無いように見られた。


「何も無かったって報告するか」

「樹さま、ちょっと待って下さい。あれ」


 アリアが指さす方を見ると洞窟があった。


「こんなところに洞窟なんてあったか? ちょっと覗いてみるか」

「はい、そうですね」


 二人はその洞窟へと近づいて、中を覗き込んだ。

その時、中から弓矢が飛んできた。


「あぶっねぇ」


 二人は咄嗟に避けた。

恐らく自動的に矢が放たれるトラップの類だろう。


「怪しいな」

「そうですね」


『サーチ』


 樹は探査系統の魔法を展開した。


「この洞窟、かなり深いな。間違えない。ここが組織のアジトだ」


 こうして二人は組織のアジトを発見した。

 

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