第29話 王都への帰還

 風呂から上がると樹はアリアを呼び出した。


「アリア、やってくれたな。また俺の風呂に」

「あら、お風呂上がったのですね樹さま」

「あら、じゃないよ。エリーヌに何吹き込んでんだよ!」

「樹さまが喜ぶかと思いまして」


 アリアはいたずらっぽく笑った。


「喜ばないわ! むしろビックリしたわ!」

「それは、申し訳ないことをしました」

「もう、やるなよ」

「はい……」


 アリアは反省した様子であった。

アリアはアリアでメイドとしてどこか抜けている部分があるように感じる。


「風呂はどうだったかね?」


 クリストフさんが尋ねてきた。


「もう、最高でしたよ。うちの風呂よりも広くて」

「そうかね、それは何よりだ。明日、王都に帰るのだろ? もう、遅い。しっかり休むといい」

「はい、ありがとうございます」


 樹とアリアはそれぞれ部屋に戻ると眠りに就いた。


「おはようございます」


 翌朝、普段より少しだけ早い時間に起きだした。


「おはよう。よく寝れたかね? 樹も朝食にしなさい」


 そこには樹の他は全員揃っていた。


「はい、おかげさまで。お待たせしてしまったみたいですみません」

「なに、気にしなくていい。お疲れだろうしな。こうして先に食べさせてもらっているがね」

「ええ、お気遣いありがとうございます」


 樹も朝食をごちそうになることにした。

朝食と取り、しばらくクリストフさんたちとおしゃべりをしていると帰る時間となった。


「さて、エリーヌ様、そろそろ帰りますよ」


 エリーヌは少し名残惜しい表所をした。


「では、おじい様おばあ様、また近いうちに遊びに来ますね」

「おお、楽しみにしているぞ。樹君たちもいつでも遊びに来るといい」

「はい、ありがとうございます」


 帰りは転移魔法で帰ってきてよいと陛下からの許可も得ているため、樹は転移魔法の展開準備をしていた。


『転移』


 すると樹たちの前に紫色の魔法陣が現れた。


「さあ、この上に乗ってくれ」


 アリアとエリーヌ、樹は現れた魔法陣の上に乗った。

そこに魔力をさらに流すと樹たちの姿はクリストフ家から消え、王都の公爵家の前に居た。


「あの、樹という少年、なかなか見どころのある男だったのぉ」

「アリアさんも只者ではない雰囲気でしたわよ」

「あの二人、まだ、実力の半分も出していない様子だったわい」

「面白いお二人でしたわね」

「ああ、また近いうちに会えるといいのだがな」

「きっとまた近いうちに会えますわ。そんな予感がします」

「お前の予感は当たるからな」


 クリストフ夫妻はそう言って笑った。


「ただいま戻りました」


 そう言うとエリーヌは公爵家の中へと入った。


「おお、戻ったか。おかえり」


 公爵様が出迎えてくれた。


「樹とアリアも道中の護衛、感謝する。エリーヌが無事だったのも君たちのおかげだ」

「いえ、任務ですのでお気になさらず。それに、美味しい料理や温泉も楽しめましたから」

「ああ、あそこの風呂はでかいもんな」


 そう言うと公爵様は豪快に笑った。


「報酬は後日きちんと支払わせてもらう。今日はしっかり休んでくれたまえ」

「はい、ありがとうございます」


 こうして樹たちは公爵家を後にした。

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