第2話 魔王、覚醒

 ルブルドシエルはもう崩壊がいつ始まってもおかしくない段階まで来ているらしい。


 もう、この時点で残された時間は限られていた。


 オレ含む大英雄達には言葉を残す時間も無い。帰郷する事など叶わない。


 生きて帰る以外の選択肢は、無い。


 招集理由だけにルーシアには予定通りに行くとは限らないと釘は打ってある。それでも、この大戦を前に何となくルーシアと元気なディンの姿を見たかった。


 聖域、ルブルドシエルの崩壊の時は刻一刻と迫っている。悠長にしている無駄な時間はない。


 遠くからでもわかる。アルケーの塔、上空に、暗雲が立ち込めている。きっと、魔王の瘴気だ。


 それから、オレ達は夜まで作戦を練った。

 そして、仮眠。各々が思い思いの時を過ごす。




 リダズはかなり思いつめているように見えた。


「オレが居る、お前は何も心配するな」


 肩を叩いて労ってやったがリダズはあまり表情を緩めなかった。


「お前か、今の内に休めるだけ休んでおけ」


 アイツは柄にもなくオレの心配をしやがった。オレがリダズを心配してやったのに。


 ちょっとムカついた。




 夜更けにはディオーネを出た。大英雄五人だけで。だが、それで十分だった。足でまといは一人たりとも要らない。


 大英雄ともなれば移動なんてただの作業だ。久々に、はばかること無く思い切りかっ飛ばせる。


 普段よりも超高速で急行する。賢者の補助はかなりでかい。めちゃくちゃ楽だ。賢者って凄いのな、無駄な魔法を極めてるだけかと思ったけど見直したわ。あのバングルド爺も嘸かし凄い魔法が使えるんだろう。


 朝日が昇る頃にはアルケーの塔へオレ達は辿り着いた。


 塔の周りは魔物や魔獣が跋扈している。


 こりゃ、お国の騎士団ごときじゃ無理だわ。

 攻略班っつっても、切り札投入してる訳ないし。


 景気よく五人で蹴散らす。気持ちいい程清々しく魔物共は吹き飛んでいく。


 それから、遅れてザイモールが来た。


「リダズさん……っ……ハァ……。僕も……行きます……。はァ……行かせてください……」


 こいつ、ココ最近ずっとハァハァしてんな。てか、オレ達が出ていった事によく気付いたな。ストーカーかよ。お前。


「どうする? ライド。コイツはお前のお付だろ」


「別にいいんじゃねえの。ただ、コイツは絶対に生きて返す。ザイモール。お前は手を出すなよ、後ろで見てろ」


「あっ、ありがとうございます」


 ザイモールはそう言って畏まる。止められるとでも思っていたのだろう。だが、こういう奴は止めた所で無駄だ。ここまでオレ達に気付かれず、ウィンの補助無しで良く来れたもんだと思う。その根性をオレは買いたい。やはり、ザイモールは見込みがある。オレはそう再確認させて貰った。


「生き証人って奴か」


 リダズが呟く。


「そうだな」


「だがザイモール。これだけは言っておく。身の安全は保証出来ない。お前はお前が生きる事に全力を尽くせ」


 お前はまだ、守られる側なんだ。絶対に生き抜け。


 そのままアルケーの塔をかけ登る。どんな魔獣や魔物、アンデット共が待ち受けていようと、コイツらと居れば何も苦はなかった。むしろ人生で一番今が楽しいと思えるまでに。


 大英雄五人。皆が生き生きと夢の実現の為、己の力を誇示する様に惜しみなく振るう。


 夢中だった。

 気が付けばアルケーの塔最上階。


 ……結構ヤバいやついるじゃん。


 三つ首の暗黒龍と来た。堂々とした佇まい。明らかに魔獣の域を超えている。そして、どでかいオブジェ、芸術品かと思った。深く彫られた様な溝、重厚な龍鱗。


 ギュオオワアアアアッッ!!


 一度威嚇すれば、大気が震える。脳が大振動を起こす。


「セイントガード!!」


 すかさずウィンが全員にセイントガードを施す。一気に楽になった。このまま脳を揺さぶられていたんじゃ体を思う様に動かせなくなる恐れがある。


「やってくれたなぁ!!」


 オレは三つ首の暗黒龍飛びかかった。力に振り切った隙だらけの攻撃だが、オレはコイツらを信じている。


 案の定、三つ首の三位一体のブレスがオレに覆い被さる様に放たれた。


 後方から圧縮された力が閃光の様にオレを追い抜く。相殺された衝撃から目の前が塞がれる。見えなくても問題ない。確かな感覚を頼りに首を切り落としてやるとするか。


 オレは炎の精霊の力を借り、剣に炎を纏わせる。そして、全力で振るう。


 ガチィン!!


(なんだコイツは!?)


 通常攻撃聞かなさ過ぎて笑える。それから幾らか斬りかかってみても、物理完全無効、四属性無効と来た。


 割とノロマだが、コイツを手放しにしておく訳には行かない。この防御性能は結構厄介だ。魔王の壁にでもなられたら突破がかなり困難になるだろうとトラモントが告げる。


 全員が納得し頷く。ただ、ここで時間を食い潰すわけにも行かない。誰かを残すか? いや、それは余り考えられない。攻撃が通じないものがここに残った所でジリ貧だ。


 そして、唯一効いたのはウィンの光攻撃のみ。それならリダズの攻撃も通用するだろうが、リダズはここに置けない。上で更なる仕事が待つ。皆が顔を顰める中、ザイモールが急に声を上げる。


「カオティックフレイム!」


 もしかしたらとザイモールが気づき、黒炎を三つ首の暗黒龍へと放った。手を出すなと言ってあるのにも関わらず。本当に言いつけを守らない奴だ。


 ギイィャアアアアァァァアアア゛ア゛ァ゛!!!


「「「!!??」」」


 ザイモールの放つ攻撃は実際効いている。てことは、二属性効くらしい。オレは開いた口が塞がらなかった。


「ザイモール!! 効いてるじゃねえか!」


「ありがとうございます、でもすいません。手を……」


 んじゃあ、ザイモールここ任せた方が良さそうだな。五人は何も言わずに頷く。


「良い、ザイモール!! お前コイツやれるか!?」


「え、あ、はい! 任せて下さい!!」


「悪いな!! こんな奴さっさと片付けて来い!!」


「はいっ!! このザイモール、あなた達をすぐに追いかけます!!」




 ……頼んだぞ、ザイモール。お前にはまだ、教えてない事が山ほどあるんだからな。


 光の螺旋階段をかけ登る。本来なら薄い神々しい黄白色のガラスの様な階段なんだろうが、完全に魔王のへの祭壇へと続く邪悪な氷階段登っている気分だ。


 黒紫に染まったガラスの階段。所々氷が張り詰め、魔王の瘴気が凍りついているようで登れば登るほどかなり冷たい。どんな原理で浮いてんだよと思うが、まあ聖域だから神の力なんだろうな。


 ギィ!! ギャア!!


 ちょこまかと小中の飛龍がちょっかい出してくる。段々と数が増えてきていてフラストレーションが溜まる。


「コイツら……」


 こちらの攻撃が届かない位置からウザったい奴らだ……。


「チッ……」


「気にするなライド。反撃は最低限に済ませて先急ぐぞ」


「ん、あぁ。にしてもウゼエな……」


 ケタケタと笑う飛龍。性根が腐ったように笑いやがる。そんなに楽しいか? 俺達の邪魔をするのはよ。


 ピィンッッ!!


 不意に目が眩むほどのレーザーが発射された。ムルディストだ。


 飛龍共を熱で切断され、身体が二つに切り離される。数拍遅れて、レーザーの軌道が激しく起爆し、誘爆を伴い塵ひとつ残らず燃やし尽くした。


 チュドドドドドオオオォォォンッッ!!! と聞いたことも無い轟音に包まれる。コイツに限って今ので力使いすぎたとか無いよな?


 灰と化した飛龍がハラハラゆったりと空を舞う。薄い雪が降るようだった。


 それは飛龍全滅を意味する。ヤツらとしてはあっけない最期となった。


「ムシケラドモガ……」


 ムルディストがざらついた機械的な声で怒りの感情を顕した。


 はぁ!? マジで強過ぎるだろコイツ!? おちょくんのもうやめよ。怖いわ!! 一人で魔王に勝てんだろお前!!


「凄すぎるだろ!? あれが最低限の反撃かよ!」


「ウザイヤツモウイナクナッタダロ」


 ムルディストなりに気を使ってくれたようだ。オレの些細な苛立ちでさえ解消してくれた優しい機巧人形。見た目がよければもっと仲良くなりたかったかもな。


「そういうことか、ありがとうな」


「オマエハコワガラズニオレトハナシテクレタ、ハジメテノニンゲンダ。オレハライドノチカラニナリタイ」


 こんな時にあれだが、オレはお前の事を怪訝な目では見てたけどな。ただ、ムルディストがそう思ってくれている事が今はただただ嬉しい。


「お、おう、意外と義理に熱いな」


「オレハライドトトアツイユウジョウヲキヅキタイ」


「良いけど怖いからカタコトやめて?」


 何となく言ってみた。ムルディストなら何とか出来るんじゃないかと思って。


「ホントウカ!? サイユウセンニコクフクシヨウ」


「じゃああと、できるなら、可愛い女の子にしろよ。ほら今有名な踊り子ミレールに似せてあんな感じに。そしたらお前怖がられないで済むだろ!?」


 簡単そうに答えるムルディストに、オレは調子に乗って更なる提案をした。


「ライド。お前、好き勝手いってんな。あまり困らせるなよ」


 リダズが窘めてくる。相変わらず遊び心も、余裕も無いやつだ。


「ナ、ナントソレハホントウカ? メカラウロコナジョウホウダ。マァ、ウロコデナイガナワハハハハハハハ」


 意外とお喋りなムルディスト。困っている様子も無い。それに、こんな状況でも緊張の色が全く見えない。それは機巧だからなのか、強者の余裕って奴なのかはオレには分からない。


「なんだお前、結構笑えるんだな」


「ソウイエバ、ハジメテダナ。コレガワラウ……。タノシイトハ、コノキモチナノカ……」


 皆、ムルディストの言葉を聞いて少しながら和やかな気持ちになっていた。そして、オレ達の生き延びる理由がまた増えた。まあ、可愛いムルディストも見てみたいしな?


 そうこうしていると、ルブルドシエルらしきものが見えてきた。


 幻想的なディストピアが眼前に広がる。今一度気を引き締める必要がありそうだ。


 そして、おぞましい力に満たされた悪霊の神々がオレ達を出迎える。計四体。恐らく四属性を司る悪霊だろう。


「ヨク来タナ……。人間達ヨ……。スグ楽ニシテヤロウ」


 その内の一体が言い放った。「カカカカッ!!」と趣味悪く取り巻きも笑った。


 うわぁ、これ完全にボスだよ。ってことは魔王も目前だろうな。


「俺が行っても良いが……どうする?」


 リダズが皆に問う。表情は中々険しい。眉間のシワがいつもより深くなる。


「ここは任せてよ! あんな奴らすぐ終わらせちゃうよ!」


 ウィンが溌剌と名乗りを上げた。


「ウィン、助かる」


「除霊なら得意だし、いいって事よ」


 こんな時でもウィンは相変わらず軽い。


「皆はアイツらから目を逸らしておいて!! いくよっ! セイクリッドフォース!!」


 眩い光魔法が辺りを白一面に変幻させる。こりゃ、効きそうだ。それにしても凄まじい威力だ。賢者ってのは攻撃魔法も中々いけるんだな。とにかく器用なだけかと思ってたぜ。


 ギャアアアアアア!!!ギイアアアアア!!!!


 死を目前に苦しむ四体の悪霊達。断末魔のカルテットが惨い程耳障りだった。こりゃ暫く耳に残るな。


 光が収まると悪霊共の跡形は無く、視界を遮る前と同じ光景が広がる。


 うわ、すげぇディストピアじゃん。どうやら魔王ってやつは決まって趣味が悪いらしい。そういや、過去の魔王が作った魔武器ってやつも中々趣味悪かったな。魔焔刀マエントウだっけか。とりあえず、伝統的に趣味が悪い変な奴らだ。相容れないね。


 それと悪霊達、すぐ楽らくになれて良かったな。あれは自己紹介だったのか?


  「あ、あのー、ちょっといいかな?」


 ウィンが潮らしく尋ねる。


「どうした?」


 リダズが答える。


「あのねぇ、力使いすぎちった。てへぺろっ」


「そうか、それ程までに奴らは……」


 おいおいおい、リダズさんよ。突っ込んでやれよ。アラサーのてへぺろだぜ? 笑う所だろ。


「テヘペロトイウノハ、ナニカヲイミスルコトバナノカ?」


「いや、気にしなくていい」


 ムルディストがオレに問いかけてきた。変な事は覚えなくていい。あっ、そうだ。


「あ、思い出した。確か可愛い女がしくじった時に使う言葉だ。お前も可愛い女の子になったら使えよ」


「ソウナノカ、ライドハモノシリダナ。タスケラレテバカリダ」


「それと、女になれたなら俺じゃなくてわたし、若しくはあたしって一人称にしておいた方が良いぜ」


「ホウホウ」


「ライドさん、そんな仕込んでおいて責任取れるんですか」


 トラモントが笑って言う。茶化しているな?


「セキニン?」


「なんでもないです。それと、仕草なんかもミレールさんに似せた方が絶対良いですよ」


「ナルホド、ソレハケンキュウノシガイガアリソウダ」


 ムルディストは相変わらず傾聴する。トラモント、中々の悪童じゃねえか。純粋無垢な笑顔の裏にはとんでもない、オレ好みの顔が隠れていそうだ。ザイモールなんかよりも余っ程見込みあるな。


「そういうことだね、結構力を使わされちゃったよ。中々しぶとかったよあいつら」


 とウィンはリダズとの話しを進めている。


「仕方ない。この後は、後方での援護に回ってくれ」


「りょーかいしました!」


 ウィンはこの後からオレ達のサポートに回ることが決まったらしい。


「それとお前ら、オレ達は遠足に来たんじゃねえ。無駄話はヤツを倒してからにするんだな」


 リダズがオレやムルディスト、トラモントへと激を飛ばす。


「へいへい」、「すみません」とオレとライドは返事をした。


「ハジメテオコラレタ」


 ムルディストは何故か感激していた。


 そして、リダズの目線の先には魔王に乗っ取られた女神がオレ達を睥睨している。事の発端はアイツか……。余暇の恨み……知らしめてやる。


「よく来たな、大英雄達よ。だが手遅れだ。残念ながら我は今、完全に目覚めた」


 一足遅かった。女神は真っ黒い瘴気に染まっている。もうもうと立ち込める凄まじい邪気を感じられる。それは視覚にも現れていた。そのおぞましさに今にもオシッコチビりそうだ。


 《皆さん……聞こえますか……?》


 誰かがテレパシーを送ってきた。少し苦しそうだが麗しい、綺麗な声だ。


「女神か!」


 リダズが言う。何? 友達なの?


 《この者諸共私を滅してください。でないと世界が……聖域が……》


「なんだァ? うるせえな!!」


 魔王は力を強めて女神をさらへ奥へと追いやる。女神の見た目で悪どい声を出されると女神がなんだか可哀想に思える。早く救ってやらないとな。


 《躊躇などいりません、わたしは大丈夫……》


 そう言い残すと、女神の感覚は消えた。残るのは女神の姿形を繕う嫌らしい魔王様だけだ。美人さんではあるけどね。


 ズオオオォオオッッ!! ドオウゥンッッ!!


 下からか? 三つ首の暗黒龍の方がドス黒いやばいオーラを感じる。そして、とてつもない衝撃音。


 ……ザイモールの方か?


「アイツ、ヤバそうだな……」


 そうオレが言うと、「行ってきます! すぐ戻りますから!!」と、トラモントが戦線離脱した。


 聖域より飛び降り、滑空。着地、しっかりするんだぞ。


 残るはオレ、リダズ、ムルディスト、カラッ欠のウィン。相手がどんな実力か分からないがために絶体絶命って訳でもなさそうだ。三人も居ればやれるだろう。そう思っていた。


 オレはどうやらここでも、しくじってしまったらしい。理由は簡単。実力の見誤りだ。


「フハハハ!! お前らどうせ大陸代表者ってところだろう? あんなの(三つ首)にお仲間がやられちゃうなんて、お前らも大したこと無さそうだなァ!!」


 リダズ、ウィンは、静かに俯く。ザイモールが……。あいつに限ってそういう事は考えたくない。確かにあの力の衝動はやばすぎる。アイツの身に何かあってもおかしくない。


「アイツが、まだ負けたとは限らねえだろうが!!」


 オレは激を飛ばした。最終局面、湿気た顔するんじゃねえ。


「……ふっ、そうだな」


 思い詰めていた自分をバカバカしく思い、笑う。リダズの目に光が宿った。


 ザイモールの事だ。絶対見せない奥の手を隠しているだろう。アイツは人前で大きい力をわざと使わない節があるとリダズは言っていた。確かにオレもそう思う。


「まあ、貴様らに確かめようはないよな。なぜならお前達はここで全員死ぬからだ。久々に誰かと話せて我も嬉しかったがな、残念だ」


「オレは嬉しくねえけどな」


「抜かせ。どっちみち貴様らは我のモノになることに変わりはない。ちょうどいい機会だ。貴様達は我の手駒の中でも上等な駒にになれるだろう。貴様らの様に力に溢れたモノを欲しいと思っていたからな」


「なるわけないだろ? オレ達はお前をぶっ倒して仲良し子よしが待ってんだよ」


「そう言うな。我と戦う資格があるのか試してやる。受けてみろ」


 魔王のこちらへと翳した掌から暗黒魔氷がノーモーションで放たれる。数は訳が分からないほど飛んできた。それに、一撃一撃がかなり重い。


 ズドドドドン!!!


 地表に突き刺さる紫のクリスタルの様に妖しく光る魔氷。不意な一撃により、各々が自分の身を守るので精一杯だ。上手いこと動きを制限されて、攻撃に転じにくい。計算され尽くした攻撃は敵ながら褒めたくなる。


「わっ!」


 そして、魔氷の処理を誤ったウィンが驚嘆の声を上げる。オレじゃ間に合わねえ……。


 ズドン!


 ウィンの声を聞いたムルディストが左腕一本で魔氷を殴り飛ばす。どこまでバケモンなんだコイツは。そして魔王は、邪悪に笑う。


「それがお前らの言う仲良し子よしってやつかァ!?」


 状況はあまり芳しくない。ムルディストはそのままガス欠のウィンを守り通した。


「ヒャハハハ!! いつまで持つかなぁ!?」


 避ける訳にもいかない。全て撃ち落としてみせた。こんな時に、すごく頼りになる奴だよまったく。


「クソっ……。ガラクタの分際で執拗いぞ!! 死ねェァッ!」


 そして、ムルディストにお熱な魔王に隙が生じる。


 オレとリダズは見逃す筈が無かった。


(一撃で息の根止めてやる……!!)


「聖ブロウ!!」


 体躯に見合わない瞬歩から、リダズ渾身の右ストレート。魔王を顎からこめかみにかけてきっちりと撃ち抜く。首がグリンと回る。その表情は驚きに満ちていた。


 リダズはそのままの勢いで一回転、凄まじい威力の蹴りをぶちかます。ドゥンッ、と重く鈍い力の篭った蹴りに魔王の身体がブワッと浮く。


「まだまだ終わらねぇぞ!」


 オレは精霊の力を借りて力を引き出す。氷がお得意のようだ。燃やし尽くしてやる。


(サラマンダー! オレに力を!)


 ブォォオオン!!


 オレは炎の精霊と一体化する。この力を行使するのは久々だった。思い切りぶちかましてやるよ。


「クロスフレイム!!」


 ズバザンッ!!


 魔王を十字に斬り裂いた。


「ウギャアアアアァァァッッ!!!」


 魔王は断末魔を上げる。美しい顔は真っ二つになり、とても醜く変貌する程に絶叫を上げる。終わったか。


 すると先程、下から衝撃を感じた所から再び大衝撃が発せられる。三つ首のものと思わしき闇の魔力オードが、爆発的に力を増していくのを感じる。


 ドドドドドウウゥゥン……。ダダダァアアアン……。


 下も激戦か。もしかしたら、トラモントかも知れないな。これじゃあもう、ザイモールは無事ですんでいる事を願うしかない。オレ達が向かうまでくたばるんじゃねえぞ。


 ダッ。


 そう思っていた途端、ムルディストが魔王の残骸へと尋常で無い速さで襲い掛かる。オーバーキルか? 無慈悲な奴だ。


 ムルディストから途方も無い力を感じる。オレとは違うタイプだが。拳を振り上げ、魔王の残骸を叩き潰した。


 振り下ろした拳と同着で、ドォン! と闇の魔力の力を爆発させ、魔王は再臨した。


 凄まじい勢いでムルディストの片腕がバラバラと吹き飛んでいる。


「ムルディストォ!」


 思わず叫んだ。さっきの束の間、気を散らさずに居たのはムルディストだけだった。


「ダイジョウブダ、モンダイナイ」


「どうやら、その口を聞くまでのチカラはあるようだ。良いだろう本気を出してやる」


 マジかよ……。何事も無かったように息を吹き返しやがった……。


 皆、苦渋を舐めたような顔で深刻に事態を受け止める。


(不死か……)


 全員の脳裏を掠めたのはその一言。だから、封印と言う手段しか取れないのか。


「クソォ!」


 リダズが聖ブラストを魔王へと乱射している。どうしようもない怒りに威力が数段増している。アイツも成長したもんだ。


「小賢しい!」


 魔王は邪の波動で全攻撃を無効化する。そして、リダズの技をオウム返しする様にこちらへと放った。


 ヤバい、リダズのなんかよりも力の純度が違い過ぎる……!!


 オレはそう思うと駆け出していた。


「リダズ!!」


 思わず叫んだ。


「来るな!!」


 リダズがオレを止める。お前なんかがあれを跳ね返せるわけねえだろ。


「セイントコート!! サーマイル!!」


 ウィンがオレに聖加護を付与する。魔王に対抗出来そうな不思議な力だ。しっかり役に立ってくれよ。


 カオスブラストがリダズ一直線に向かってくる。間に合いそうだ。


「インフェルノ・エクスプロードォ!!」


 オレは炎の精霊、最高の剣技を放った。


 バゥウウウン!!


 何とか相殺できた。まさか、ここまでとは……魔王。初めてだ、この無力感。一体お前を倒すにはどうすりゃいい。訳が分からず足がすくみそうになりやがる。


「ほう、それならまだ続けるぞ!」


 魔王は更に放つ。無尽蔵のその力に流石に血の気が引ける。今度はオレへと向けられた。


「ウラァアアアアアッッ!!!!」


 オレはインフェルノ・エクスプロードを連続して発動した。無我夢中だった。自分の身のことなど省みもせずに。


「ぐぅぅ、はあ、っはあっ」


 奴の放つ弾幕が途絶える。息が詰まる。苦しい。それに、何発か被弾した。奴は正真正銘のバケモンだ。


「ブレッシングレイ!」


 ウィンがオレに回復魔法をかけてくれる。賢者クラスにもなると一気に楽になる。苦しさをすぐに忘れることが出来た。オレはまだいける。


「ククク」


 魔王が不敵に笑む。手元にはディメンションゲート。


 その時。地中が蠢いたと思えば、地面から間欠泉のような爆発が起こる。


(やられた……)


 一瞬だった。仕込まれていたんだ。強大すぎるその力、万事休すか。オレとリダズは巻き込まれる事必至だ。


「死ねぇ!! 地上のムシケラ共がァァ!!」


(終わっ……)


 一瞬で諦めそうになる。もう、間に合わない。


「極気! 聖天掌波ァ!!」


 リダズが究極武技を発動する。こんな技が完成していたのかよ……。こんな時に驚かせてくれる奴だ。本当にすげえ奴ばかりだ。


 それでも、邪気による間欠泉の勢いは止まらない。オレは呑気にも、思いを巡らせていた。あの、リダズに助けられちまったんだもんな。


「……グゥッ!! 何ボサっとしてんだ! てめえも何とかしろ!!」


「ん、ああ!! 任せろ!」


 オレは現実に引き戻される。なんと言ってもオレ達は間欠泉内部にいる。ボサボサする暇など無かったのに。地下から噴き出す黒い壁は今にもオレ達を飲み込まんとギリギリと押し寄せる。


「紫電、神威!!」


 リダズの力に合わせ、増長させる。剣を地面に思い切り突き刺し、魔力を全力で注ぎ込んだ。


 バチバチと紫電が弾ける。黒壁を押し返すと同時にリダズの力を感じられる。真っ直ぐで力強い、何か守り抜く様な力。


「お前とこうして戦うの久々だな」


 リダズは時を憚らず呑気な事を抜かす。コイツ、誰にも聞かれていないタイミングを見計らっていたのか。


「こんな時に何言ってんだ。お前、サボりやがって……。さっさと……ぐぅ……」


 リダズがこんな時に力を抜き始める。仕返しかよ。


(ヤベぇ……流石に魔力がっ……)


「もう持たないのか? 情けないやつだ。そういや、初めての時もそうだったな」


「お前すぐそうやって懐かしむよな。年寄り爺みてえだな」


「かっ、ならお前も爺だぞ」


「そうかい、なら行くぜ爺さん!!」


「「オラアアアアアアアアッッ!!!」」


 オレとリダズは声を合わせ、お互いの波長をより強める。


 この間欠泉は魔王へとディメンションゲートを通じて繋がっている。


「「届けええぇえええッッ!!!」」


 オレ達は力を最高まで高めた。気が狂いそうな程に身体が熱い。脳が沸騰してやがる。


 構わない、このままコイツと逝けるのならば。コイツの力になれるのならば。


 ふと、そう思っちまった。


 そう、コイツはどんな時でも、オレと言うとんでもないクソ野郎を見放さなかった。コイツには借りばかり作ってきた。何度も救われた。コイツのおかげで今のオレが居る。


 デカい借りを返してやりてぇ。オレは、コイツの力になりたいんだ。


 ……そう、一番の。

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