魔王が復活したせいでオレの余暇が奪われた件〜スローライフをこよなく愛する最強剣士〜
アキタ
第1話 魔王、復活の報せ
どうやら、オレはしくじったらしい。
「魔王が……。魔王が復活します!!」
と息も絶え絶えに遠い王都から遥々こんなド田舎に飛び込んできたザイモール。
魔王? そう言われてもイマイチピンと来ない。
こうして、聖域ルブルドシエルでの異変を知り、オレの貴重な余暇を奪われる事となった。
それにしても、ルブルドシエルか……。遠いな。場所が場所だがいつも通り雑魚共を蹂躙してやろうと思っていた。
だが、魔王の力により、魔物や悪魔が聖域のみならず、アルケーの塔。そして内部にまで悪魔や悪魔精霊が跋扈しているらしい。正に地獄絵図。先鋒隊がだらしなくのさばりその身を乗っ取られてやがったから尚更酷い有様だった。
ザイモールが焦っていた訳も頷ける。
「近々ルブルドシエルの女神の加護が打ち破られる」と言っていた事が、その光景を目の当たりにしてようやく理解出来た。
当初のオレと言えば、何を馬鹿な。そんなわけないだろ? 魔王封印する為にルブルドシエルがあって、そこにその為だけに女神がいるんだから。
そう思っていたがどうやらそうもいかないらしい。
そして、ザイモールの話を聞いたオレは
(ふざけんのも大概にしろよ、オレ無しでやってみろよ)
と思った。
結局のところ、魔王が復活しそうだと言うので、助力のお呼びがかかったらしい。
それと、ザイモールは多少の見込みは有るが何故大英雄の候補になれているのか分からないくらい弱い。オレ基準で見て、な。
グランディア学園では少しやんちゃだったらしいが、オレからすれば何でも言う事を聞く、至って真面目ないい子ちゃんにしか見えない。
そんなザイモールとは、師弟関係とまではいかないがその辺の有象無象より見込みが有るからたまに可愛がってやっている。
最近、可愛がってやった後はオレに隠れてコソコソやってるみたいだが、何か考えがあっての事だろう。アイツを唯一評価するとすれば奥に秘めた力は大したもんだけどな。それでもまだオレより弱いだろ。でもオレはそんな穿った見方しかする気がない、許してくれ退屈なんだ。
それに、奴もそれなりに評価はされているんだろう。なんせ、大英雄候補様だからな。
大英雄とか言う制度だって近年制定された制度だ。だから良くわかんねえ奴ばかりだよ。ウィンとか言う年下の賢者に至ってはバングルド爺の秘蔵っ子だとよ。容姿がかけ離れて似てねーよ嘘つき爺。案外いい女ではあるけどな。爺の手垢ついてるだろうしオレはノーサンキューだ。
そんなこんなでオレは、我が子ディンに剣術の施しをしている最中に邪魔が入り、オレは急遽ディオーネ王都。冒険者協力本部へとやってきた訳だ。嫁のルーシアには愚痴愚痴言われたが仕事だ、仕方ない。今度機嫌でも取ってやるとするか。
勿論息子のディンはこんな面倒な奴らとつるんで欲しくないからザイモールにすら会わせていない。こいつは伸び伸びと自由に生きて欲しいと思っている。
それに、何かしらの機関に我が子が利用されるのもオレの癪に触るしな。こいつはオレ同様に思うがまま生き、冒険者の道を選ぶなら冒険者になったその時自分の力で何とかしてみろ。それがオレなりのやり方ってもんだ。
王都へ着いてみれば馴染みのリダズがオレを呼べと言って聞かなかったらしい。大層偉くなったもんだ。
「ライド、急に呼び出して悪いな」
「悪過ぎんだよ、頭丸めて詫びろ」
「うるせぇ、席につけ」
「はいはい」と言い、オレはどかっと席に座る。
そんなリダズは大いなる民衆の信頼を得て、世間一般的に見れば、若くして大英雄に名を連ねた所謂エリートってやつだ。性格はエリートじゃねえけどな。かなりのボンクラ野郎だ。
そんな奴でも冒険者協会のトップ層にはどうやら気に入られているらしい。お陰でアイツに余暇なんてないけどな。もし、オレが功績上げてもお前に擦り付けてやるよ。
そんで偉いおじさん達にでも更に気に入られろ。お前の苦労している顔を見るのがここに来て唯一の楽しみになってんだ。ざまあみろ。別に恨んじゃいないが、今となっちゃオレの親友と呼べる奴もリダズ位しかいない。
そんなリダズを親を持ったアイツの娘。リアナちゃんは偉い。やっぱ行先はエリートちゃんなのか? 祖父のリオルデさんと父親不在の中、仲良くやっている。ディンより一つ年が下だが、ディンなんかよりよっぽどいい子だ。人の事を良く見て、理解している。交換して欲しい位だ。
かえってディンは馬鹿だ。エリートの娘と比べて悪いが単細胞だ。誰に似たんだか。オレか?
それに思う。リダズの様ように周りを気にして身を粉にした所で得られる物は富、名声、あとはなんだ? 正直オレは多少の富以外に興味が無い。リダズは国の偉い奴らみたいに「俺がこの世を変えるんだ!!」なんて自分の世界に浸って居るようにしか見えない。大した情熱だとは思うが。
別にひがんでいる訳でもない。オレもつい先日大英雄へと名を連ねさせて貰った。至って真っ当な理由だ。世界への貢献が認められた。リダズの推薦ももちろんあったけどな。まあ、遅かれ早かれオレの実力があれば当確だっただろう。
オレ程に強い奴、早々いねーもんな。ようやく世界もオレを認めたが、遅すぎる位だ。まったく。
因みに、オレがどの位強いかと言うと、リダズ位ならワンパンじゃね? って位だ。たぶん。
元々ヒョロヒョロだったくせに数年会わなければ気付けば筋肉でギッチギチ。
「まるで筋肉アーマーだな。重くないのかよ」
なんて笑った事を思い出すな。急に怒り出して魔導を扱う為には身体からなんだかんだ熱くなっていたが何考えてんだかさっぱりわからん。言われて見れば最近は魔導を扱う者でも恰幅の良い奴がちらほら居た気もする。
そういう流行りなのか? オレは全くそんな事する気にならない。それに、殆どのやつはめちゃくちゃなビルドアップを繰り返してるだけだ。リダズの提唱している本来得られるはずのシナジー効果なんて大多数のマッスル達が実感してないと思うぜ。
そう考えれば、今のアイツはワンパン出来そうにないな。なんか、訳わかんないくらい神々しい力使いやがるし。オレの知らない所で、生意気で気に食わねえ。
やっぱ、そういう奴っていつの間にか強くなってんのな。オレを見て常に焦ってたからなアイツは。かつてはグランディア学園二大美少年と言われていたアイツ。
もう一人はオレだと信じたい。でも今となっては可愛い筋肉アーマーちゃんだ。実質オレの一強か? 何時思い出しても最高に笑える。娘がどんな顔で奴の姿を見て、どのように現実を受け入れられたのかが手に取る様に想像がつく。
まあ、そんな事は良い。オレの余暇を潰しやがったリダズの事なんてな。
話は戻るが、大英雄に名を連ねたからこそ今回の勅命が下ったと言っても過言じゃあない。正直煽おだてられて大英雄に名を連ねた事、後悔している。
本当に世界の危機が迫っているんだと。切迫した状況にピリつく冒険者協会本部。滑稽だ。悪の根源をぶっ潰せば済む話なのに話し合いもクソもあるか?
本当、お偉いさんごっこは大変ですね。オレからすればクソめんどくさいだけなんだが。
ここに招集されたオレ以外の大英雄で知っている奴は、リダズ、賢者のウィン。
知らない奴はアトラス最強って言われているトラモントって若い奴とメティウスの個人要塞ムルディストって奴が同席している。只者では無いことは理解出来る。風格、黙って居ても感じる圧倒的存在感。何もしていなくても全てが常人のそれではない。
トラモントはザイモールの知り合いらしいがザイモールとは違って真の猛者らしい。なんせ、武器なら何でも使用出来るんだとか? そんでもって武神なんて呼ばれているらしい。オレも一度やり合ってみたいね。
なんせ、アトラスで有名なのは剣豪揃いだ。中でもブレイドっておっさんはマジでヤバい。ぶっちゃけ負けた。剣技じゃあのおっさんには適わない。オレからも大英雄へと推薦してやりたい。ありゃバケモンだ。ま、魔力オード使っちまえば勝てるだろうがな。ギリギリ。
だからこそ、そのおっさんよりトラモントが凄そうには見えないけどな。って事は何か隠して居るんだろう。まだまだ若いのに、ザイモールと言い大した努力家だ。
ザイモールより早く大英雄への階段を駆け上がっているし、もしかしたら天才なだけかも知れないけどな。頑張れザイモール。お前のライバルは恐らく糞強いぞ。
それにブレイドのおっさんはディンと同い歳のガキを拾って己を超える存在を作り上げるだのなんだの言ってたし。何考えてんだか理解できないね。そこまでして自分を追い込みたいのは剣聖ならではの葛藤か何かか?
オレならディンがオレを超えたら超えたでムカつくけど、鼻高々に自慢するだろうな。
そんでもってブレイド四人衆って奴らも中々の手練だった。ブレイドとやりあうってんならと、四人衆とも模擬戦を組まされたが全員オレに為す術もなく打ち崩してやったけどな。
その中でもマークスって奴は気持ち悪い程のテクニシャンだった。あいつ超絶変態だわ。オレのセンサーがビンビン反応してる。
なんせブレイド一門は極力、魔力オードを使わない宗派らしい。オレからすれば両方極めちまえば良い気しかしないけどな。
ただ、人間そこまで器用でも無ければ恵まれてもいない。剣聖と言うのはそういうものだ。
それと、ムルディストか。一目見て疑問に思ったがこいつ、人間じゃねえ。魔族ですらねえ。
傍目から見ている分にはよく分からん機巧人形なんだが、こいつはオレからみても底知れない。そんでもって何考えているかも分からねえ。興味持てば持つほどひたすら謎の塊だ。
電子的脳をしているなら尚更オレとは相容れねえ存在だ。そんな殺戮マシーンに興味は無い。噂じゃマーハドットとか言うマッドサイエンティストの遺作だとかなんだとか。
生まれた瞬間の記憶も無く、とある頃から年齢を数えて居るらしい。現在七十三歳、おじいちゃんだな。おばあちゃんか? その辺もよく分からん。
なんせ見た目が人間からかけ離れ過ぎている。とりあえずメティウスの奴らのする事はいかれてやがる。最近なんかはそんな事ばかりにうつつを抜かしているからメディウスの歯応えのある奴すら思い浮かばない。まあ、ムルディストは悪いやつでは無さそうだし別に良いんだけどな。不確定要素が多すぎて友達にはなれそうにないタイプだ。そういやこいつ友達とかいるのかな?
これからリダズ、トラモント、ムルディストは各国の偉い奴らと、これから合流するらしい。その前に大英雄での会合をしたかったとリダズが仕切る。大英雄第一号様はご立派なこった。そう考えると本当に世の中ひっくり返すんじゃないかこいつ。なんてな。
まあ、現地である戦場で大英雄が「初めまして」と、鉢合わせるよりはマシだよな。リダズらしい考えだ。とりあえず話を聞く。
「既に聞いての通り、ルブルドシエルにて魔王の瘴気が確認されている。調査しようにも麓にあるアルケーの塔が既に魔王の瘴気にて侵食されていた。先鋒は全員魔王の配下に置かれてしまっている。各国はこれから精鋭による討伐部隊を編成し派遣するらしい。そして、オレ達に出来ることは一つ。この勢いに乗じて魔王討伐する事だ。この世界を守る為、皆の力を借りたく思っている」
「リダズさんが動いてくれなければ私も同じく動いていたでしょう」
とトラモント。若い癖によくこの中で発言する勇気があるな。怖いもの無しかよ。
「オレモソウオモウ」
ムルディストが喋った。おいおい、発声器官どーなってんだ。ざらっざらの電子音声じゃねえか。こんな時に笑わせんな。
「ナニヲワラウ、ライドヨ」
「何でもねえよ、良い声だなお前」
「ホメラレタノハハジメテダ。ウレシイ」
「お、おぅ、良かったな」
ムルディストはよく分からん。こんな機械的な奴ではあるがメティウスではリダズより偉いらしい。役職はメティウス冒険者協力本部長を仰せつかって居るという。いい子ちゃんのリダズですら副部長だ。それも、バングルド爺さんが部長として居る限りは上が詰まってるってだけだ。
それに近々退任すると言う噂がある。ウィンを輩出したことだし、ディオーネ王都に腰を据えたいらしい。恐らく、グランディア学園で校長でもするのだろう。昔から若い女が好きでグランディアへとよく遊びに来ていた。オレが学生の頃はそんなエロ爺の邪魔すんのが最高に面白かった。
そのエロ爺が輩出したハクい女もリダズの言う事に頷いて聞いている。いやー、やっぱぜんぜんにてねぇわ。
「ライド、お前はどう思っているのか聞かせてもらえるか?」
「別にいいんじゃねえの? ぶっ潰せば終わりなんだろ?」
「お前は簡単に言うな。相手を考えろ。未知の存在、未知の領域に踏み込む自覚があるのか?」
「あーうるさいうるさい、オーケーオーケー。全部分かってるよ」
「そうか、では、トラモント、ムルディスト。一緒に来てくれるか。各国の王がお呼びだ」
各国と言ってもこの大陸は大きくわけて三分割されている。大陸最強の帝国であるアトラス大帝国。色んな奴らがひしめき合ってる。それ故にトラモントと言う青年がどの程度の実力なのか気になるのだ。
それとディオーネ王国。大英雄発足の国ともあって現在大英雄の数は三人と一番多い。不思議と魔力オードに長けたものが多い。
最後にメティウス。最近のメティウスは機巧の力にお熱だ。科学者など知力に長けたものが多いらしい。力をいれてきた魔導工学が急速に発展をし力を伸ばしている国である。マーハドットがあらかじめまいておいた種が芽を出して来ている。
ムルディストと言う圧倒的一強の存在があるため、他国に侵略等されない上に、内乱も起こることがない。ムルディストによる独裁国家って奴だ。それでも、国家崩壊しないということはムルディストに関しては人格破綻者等の特別的な問題は無さそうだ。ただ思う。極論を言えば自ら生み出したロボットを畏れ、ロボットに支配されている哀れな国に思える。行き過ぎたテクノロジーはいずれ反乱を生んでもおかしくない。
そんな事を思いながら、リダズについて行くトラモント、ムルディストを見送る。この場に残されたのはウィンとオレだけ。
「お前、何で大英雄になったんだ?」
突然聞いてみたくなった。トラモント、ムルディストに関しては国の代表の冒険者みたいなもんだ。
「あたし? んー、爺さんがやれって言ったから?」
「あの爺が? 厄介なもん押し付けられたんだな」
「本当だよ!」
そして、オレとウィンはバングルド爺の話し笑いあった。あの爺の豪腕ぶりにはオレも参った事があったから気持ちはよくわかる。
「お前は魔王がどうとかどう思ってるわけ?ぶっちゃけ大した事ないと思ってる口だろ」
「あっ、わかる? ライドさんも中々危機感ないよね」
ウィンはリダズが話している最中表情一切変えず何処にも重きを置かずに「うんうん」と、頷いているだけだった。あれは何とかなるって顔だ。
「オレはほら、あれだよ。想像つかないって言うかさ」
魔王? 余裕で倒せるでしょ。と豪語するのも気が引けたので誤魔化した。苦戦したらカッコつかないし。
ーーーーー
それから三日後の事。オレ達は再び招集が掛かった。
各国は騎士団等の兵力を上げ、アルケーの塔を攻略したと言う。
百層ともなるアルケーの塔。この世界の根源がアルケーの塔にはあると言われている。
結論から言えば精鋭達による攻略班は全滅した。そして、全員魔王の配下となった。オレ達の手助けとなる筈の各国が足を引っ張っているのだ。
そして、無責任にも世界の命運は委ねられる。大英雄の五人へと。
良いよな、世界の命運懸かって居るのに、お偉いさんは安全な所から指示するだけだ。
命懸けて攻略した奴らは魂食われちまって易々と殺されもせず利用されている。
正直、オレは乗り気じゃなかった。困った時に頼るだけ頼るくせに、こんな奴らに恩を売ったところで何の意味があるんだ。大英雄でつるんじまえば国なんて殆ど意味を成さないのに。
そう言ったらリダズが激怒した。そのやり方を変えるために大英雄制度が、発足した。オレの言う通り、各国は大英雄が一つになってしまえば最早敵ではない。ただ、そんな武力行使した所で本当の安寧は得られない。
むしろ、魔王が目覚めかけているこの偶然の機会は偶然にしては出来すぎてきるくらいに冒険者協力地位向上への追い風は吹いている、そして後は全人類を救い、冒険者協会は大きな一歩を踏み出す。そうすれば、国と冒険者協会が、この大戦の後で殆ど対等な立場に持って行ける。言わば一世一代の聖戦だと皆を奮い立たせた。
リダズは人生を賭けてこの聖戦に、赴くと来た。そこまで考えていたとは……。流石、オレの唯一の親友だ。他の大英雄もリダズの意思に賛同し招集されている。それを聞いた時、その場に居るものの中で覚悟が足りなかったのはオレだけだった。正直、オレはオレの馬鹿さ加減に呆れを覚えた。
いつまでもガキみたいに斜に構えて俯瞰者気取りだ。それでいて自分の物差しで全てを自分基準で測っていた。そりゃ、友達もできないわ。
オレはオレが強い事に意味がある。オレは誰よりも強くならなければならない。オレにあったのはそんなちっぽけな自分ルールだけだった。ポリシーなんて烏滸がましい。他の立派な大英雄達に笑われちまう。
そしてオレは腹を括った。
大英雄コイツらと共にこの世界を救うと。
今までこんなクソ野郎で申し訳なかった。そして、こんなクソ野郎でも出来ることがある。
一番の武功を上げることだ。
オレは奮い立った。リダズの様に熱く生きたいとそう思った。
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