第13話学園の王

「ライム!!どうしたんだ!?」

「マ……スタ……すみま、せん……油断、しました。」


 隠密を徹底させていたライムが攻撃を受けるなんて……


 ライムはどんなことでもそつなくこなせる万能な最弱ヴァーサタイル・スライムなのだがその中でも隠密においてとても優秀で千里眼というスキルがない限り本気で隠密に徹したライムを見つけることはできない。


 それに千里眼があってもレベル差が開いていなければ見つけ出すことはできない。少なくとも野良レベルは二百越えのモンスターでないと見つけ出すことはできないはずだ。


「だ、大丈夫なのか!?何があったかわからんけどとりあえず戻ってくれ!」


 俺は怪我の具合を見て楽園神殿に戻ることを伝える。


 楽園神殿とはテイムした子たちが暮らす空間、そこにはNPC以外のテイムしたモンスターたちがいる。


「む、無理です……多分先ほど喰らった攻撃のせいで、パスが切れて戻れません。」

「な!?」

 

 パスとは、テイマーである主人とテイムされたモンスターを繋ぐ回線のようなものだ。そのパスを通じてどこからでも召喚したり神殿に戻したりMPを渡したりできる。普通はその回線に触れることは誰もできずマスターからパスを切断する以外にその回線を断ち切ることはできない。


 ただし例外として特殊条件で手に入る武器と運命の手と呼ばれるスキルがあればテイマーとのパスを切ることができる。


「まさか、俺達以外のプレイヤーがいるのか?」

「いえ………違います、サル型の……モンスターです……」

「サル型?」


 サル型、そして二百レベル以上であり運命の手、千里眼のスキル所持モンスターとなれば一匹しかいない……


「ヨルムガルドか……」

「視界の端に一瞬捉えただけなので断定はできませんがその可能性が高いかと……」

「そいつは今瀕死のお前を置いてどこに行ったんだ?」

「わかりません………私も死なないために本体を分裂したので多分向こうも私のことを殺したものと思ったのかもしれません。それと分裂して本体を逃がす作業にリソースをすべて注いでいたため攻撃されて以降の動向はわからないんです。」

「そうか…………」


 もし、他の獲物を探しに行ったのなら一番やばいのはあきら達か。


「お役に立つことができず申し訳ございません。マスター……」

「いいよ、気にすんな。それよりもライム、俺が運びやすい形に変化してくれないか?」

「大丈夫です。マスターのお邪魔になりませんので…………」


 そう言うとライムの体は見る見るうちに小さくなっていき幼い少女ぐらいの大きさまで縮んだ。縮んで余った分のスライムを失った手足に回しており見た目的負傷は綺麗になくなっている。


「マスター、損傷は軽微ですがすべての機能に制限がかけられています。元の状態の三割ほどの機能しか使えないものとお考え下さい。」

「了解だ。あいつらの下に急ごう!」


 ライムと一緒に階段を駆け下りる。一階までたどり着いたときデラクの姿が見えた。


「デラク!!」

「どうしたんだよ、主様?」

「すぐに警戒態勢をとれ!ボス級のモンスターが近くにいる可能性がある!」


 その声は後列にいる生徒たちにも聞こえておりざわざわしだすがその命令を聞いたデラクだけは静かに鎌に意識を向けて警戒態勢に入った。


「お、おい!どういうことだよ!ぼ、ボス級モンスターが近くにいるって!?」


 一人の生徒が声を上げる。一連の会話はすべてナイトたちがいる前列にも聞こえていたらしく全体の動きが完全に止まってしまった。


「どこにいるのか正確な位置まではわからないがどこかにはいるはずだ。」

「居場所も分からないとか、どうするんだよ!?」

「だからデラクに警戒態勢をとれと命令したんだよ。ひとまずナイト!彰!移動スピードを上げるぞ!もう体育館は目の前なんだから走って向かおう!」

「わかった!お前たち!騒いでてもどうにもならないから移動しよう!」


 彰の言葉に渋々ながらも付き合い走り出す一同、走り出して三分ほどでモンスターに襲われることもなくたどり着いた。


「よかった~」

「なんとか無事にたどり着けたな。」

「早く入りましょう!」


 各々が喜びを表し、早く中に入ろうと扉に手をかけようとする生徒をナイトが止める。


「な、なんだよ………?」

「入るのはまだよした方がいいでしょう。中から敵意を感じます。」

「な!?敵意だって!?じゃあ中に……。」

「どうしたんだ?」


 デラクに後方を任せライムと共にナイトの下に来た直弥なおやたちは騒がしくしている前列の奴らに話かけた。


「この建物の中から我々に向けてとても強い敵意を感じます。中に入るのは危険かと。」

「……そうか。今の戦力はナイトとデラクだけか……」

「そう言えば合流して気になってたことがあったんだがその子、まさかライムか?」

「ライムだ。」

「まじか……一体何があったんだよ。もしかしてボス級モンスターがいるっていう話と何か関係があるのか?」


 直弥はライムから聞いた話と自分の知識からの推測を彰たちに話した。


「そんなことが……。じゃあ体育館にいるやつはもしかして―――――」

「ヨルムガルドの可能性が高いかもしれませんね。」


『……。』


「考えても仕方が無いか……。」

「直弥?」

「デラクとナイトの二人でヨルムンガンドを倒す。」

「無茶だろ!それにもし敵が本当にヨルムンガンドならテイマーにとっては相性最悪の相手だ!それでもやるのかよ!?」

「やらないとダメだろ。それにどの道、ここで救援を待つのならここのボスであろうヨルムンガンドは倒さなければならない敵だ。後回しにするよりもデラクとナイトが万全の状態のときに叩いておく方が可能性はあるはずだろ?」

「それはそうだが……」


 俺は後方で待機しているデラクを前列に呼び出し、代わりにライムに殿を任せる形とした。


「さて、迷っている暇はない。デラク、ナイト、行くぞ!」

「りょ~か~い~」

「かしこまりました。」

「……お前が俺たちのためにやってることも分かるし正直お前ばっかに頼りたくはないが今はお前しかいないから、頼む!それと、死ぬなよ……。」


 不安な顔で見つめる彰、こんなことついさっきもあったな……。


「安心しろ、俺はアオゲー内でも屈指のしぶとさを持ったプレイヤーだったからな。」

「……そうだな。」


 彰たちに見送られながら体育館入り口の扉を開ける。そこに見えたものは体育館の壇上に肘をつき横たわるゴリラより一回りほど大きなサル型のモンスターの姿だった。


 



 



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