第4話彰の後悔

 俺は今の状況を見てひどく後悔している……


腕を小熊のような動物に食われている俺の親友。


苦しみ叫んでいる俺の親友。


こんな状況になっているのに足がすくんで動けない自分。


 助けに行きたいのに怖くて動けない、直弥なおやに対してただ逃げろと叫んでやることしかできない。


どうして俺はあの時自分で行くと言えなかったのか……


 あの時、直弥に深呼吸をして周りを見ろと言われた。深呼吸をすると頭がスッキリしたように感じた。そして周りを見渡すと不安そうな表情で俺を見つめるクラスメイト達がいた。


 クラスメイト達の顔を見て直弥なおやの言葉を思い出す。


「今このクラスをまとめ上げているのはお前なんだからその責任を果たせ。」


 その言葉が妙に胸に残り、俺のぐちゃぐちゃになっていた思考が一つになった。


”俺がやらなければいけないことはリーダーとしてクラスメイトを支えること。”


このように考えてしまったことが俺の最大の過ちだった。


 俺が机や椅子で簡易的に作られたバリケードをくぐり直弥なおやの様子を見ているとすぐに異変が直弥を襲った。


突然の嘔吐だ。


 直弥が朝に食べたものなどをもどしている。


すぐに直弥のもとへ駆け寄ろうとするがそれを当の本人が制止する。


 これが第二の過ちだ。


この時どうして制止を振り切り直弥の下に駆け寄らなかったのか。


もしこの時あいつの下へ駆け寄れれば二人でどうにかできたかもしれないのに……


 窓ガラスが割れる音と共に直弥の悲鳴がクラス中に響き渡り直弥の腕に小熊が噛みついているのがみえた。


 俺の感情が後悔で一杯になる、どうしてあの時俺が行かなかったんだろうと自分を責め始める。


頭ではわかっているが感情が追い付かない、ただ直弥に対して呼びかけることしかできないのか……


 そして後悔と苦悩が押し寄せ、ただ叫ぶことしかできない今、目の前で直弥なおやの右腕が食い千切られた。


 食い千切られたのと同時に直弥なおやの断末魔にも似た悲痛の声がクラス中に響き渡った。


 あまりの大きさに耳を手で抑え込んでしまうくらいの叫び、そして直弥はそこで腕から大量の血を出しながら転げまわっている。


「直弥ァ!!!!」


 返事はない。俺の叫びは届いていないのかただそこで右腕を抱えうずくまっていることしかできずにいた。


 そして腕を食い千切った本人はムシャムシャと直弥の腕を食っていた。


(このままじゃまずい!)


直弥は痛みで蹲っているがこのままじゃあの小熊に食い殺されてしまう。


 そう思いバリケードの隙間から外に出て直弥の下に駆け寄ろうとしたときそれは起こった。


 最初は直弥がなにかブツブツ言っているのが聞こえた、喋っているのが聞こえてほんの少しだけほっと安心した次の瞬間、まばゆくそして真っ赤に輝くとても大きな魔法陣と思われるものが直弥なおやの前に現れた。


「何だ!?」


 それは一瞬で俺の疑問の声がかき消されるほどの眩しい光で辺り一面を覆い隠し、すべてを飲み込んだ。


 そして目を開けたとき驚くべき光景が目の前に広がっていた。


そこには真っ黒な鎧を着た二メートルほどの騎士のようなものが立っていた。


 こいつは……


 さっきの直弥を襲った小熊のような動物にも心当たりはあった。


額に埋め込まれているルビーのような宝石そして小柄で獰猛、俺がプレイしているゲームAnother onlineに出てくるモンスターにとても酷似していた。


 そしてこの真っ黒な甲冑で身を隠し直弥に対して主と仰ぐその騎士は直弥が初めてアオゲー内で手に入れたナイトと呼ばれる骸骨騎士によく似ていた。


 いや、似ているじゃないナイトなんだ。


そう確信するほどにその騎士は直弥に対して絶対的な忠誠心を見せていた。


 もうどうすることもできずただ死を受け入れなければいけないのかという絶望に包まれていた今の現状に一筋の光が指したのだった。


 





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