第6話 告白?

 二十二歳年下の少年に告白されました。


 ラブではなくライクと取っておきましょうか。


 いえいえ……。そんな空気じゃありませんよ?


 私は心の中の動揺を隠すように、自分に突っ込みを入れていたが、内心では驚愕している。




 どういう事?






 歳だけならいざ知らず、名前まで知っている。

 そう、私の事を知っているのだ。






 どういう事も何も、普通に考えれば、この少年が全てを知っている。






 私がアパートの玄関を開けて倒れ、


 そして、今ここにいる理由。




 少年は当然深く関わっているのだ。




 ドアノブを開けた時、何を思ったか?


 ドアの前に子供がいると思って慌てて開けたのだ。




 つまりインターホンを鳴らした人が存在する。 当たり前といえば当たり前の話。






 シンプルに考えるならこの少年がインターホンを鳴らしたことになる。






 あの時、先生の立場に返って、子供だと思って開けたのだ。




 もちろん、あんな時間に子供がいるなんて、不自然極まりない。


 でもー状況的な異様さよりも、大切なのは目の前の現実だ。




 状況なんて後からいくらでも理由付が出来る。




 子供を助けるのは一分一秒が勝負。リスクの少ない方を無意識で選択する癖がついている。




 リスクが少ない方というのは、もちろん子供を確保する方だ。




 今、目の前にいる少年は烏帽子を被っていない。




 これはさっきも思った事だが、この時代にしては珍しい事だと思う。頭を素で晒す習慣はないのだ。






 私は少年の柔らかそうな髪に視線を移す。


 漆黒ではなく、自然な感じの茶色の髪だ。






 ドアの覗き穴から見えた髪の毛は、こんな髪質じゃなかったろうか?






 確定は出来ないが、違うという断定も出来ない。




 そしてーー




 年齢と名前を知っている理由は?




 私の事を知っている。




 親戚や友人ではない以上、担当した園児と考えるのが妥当だ。




 年齢から考えて、新人の頃、担当した子。




 私は薄く目を瞑った。






 何年経った所で忘れるはずない。


 担当した子は覚えている。






 目を開くと少年と目が合う。






 大人びた、利発そうな少年を担当した事がある。


 その子はお迎えの時間になっても、母親も父親も迎えに来ない園児だった。




 父親と母親は仕事で忙しいらしく、父親の秘書が迎えに来ていた。




 秘書?




 その時に、家庭環境に強烈な違和感を感じたのを覚えている。




 父親に秘書がいる? そういう家庭環境の子が保育園に預けられるのはとても珍しい。






 保育園は幼稚園のような文科省下の学校機関ではなく、厚労省下の福祉機関になる。






 何らかの事情で保育する人の手が足りない時、通う場所だ。






 福祉福祉した場所でもないが、社長的な立場の人の子供は少ない。






 だから強く記憶しているのだ。






「ーーーーー瑠佳君?」






 私は記憶の奥から手繰り寄せた名前を口にする。




 そうだ。瑠佳君に違いない。


 口に出した事によって確信に変わった。




 あのイケメン秘書と手を繋ぎながら帰っていた瑠佳君だよ。




 髪がふわふわした薄茶色で、目も同じ色。




 もしも違うと言われたら吃驚だ。




 私の呼びかけを聞いて、少年はふわりと笑った。




「欲を言えば、会った瞬間思い出して欲しかったですね?」




 そう言って、少し不服そうにこちらを見た。




 いえいえ、褒めて下さい! 


 一発で名前が出てきた事を!




 しみじみと懐かしい……。




 何と言うか……私にとって、園児というのは可愛らしい子供なのだ。




 その記憶が鮮明で、なかなか目の前の人物が、かつての子供と一致しない。






 だってさ……。


 衝撃の再会で、なんだか有耶無耶になってしまったが、私たち恋愛に置いての射程圏内の話をしていなかったっけ?




 してたよね?




 私、かつての自分の担当園児と、間違いなくしてたよ、うん。




 意を決して口を開く。




 ここがどこだか分からず、心細くて混乱していた訳だけど、立場上、先生な訳だから、俄然仕事スイッチが入る。






「瑠佳君、久しぶりだね。再会になかなか気づけずにごめんね。先生、瑠佳君が大きくなってて吃驚しちゃって。でも知り合いが居て良かった。今、聞きたい事が沢山あるんだけど、聞いて平気?」




 瑠佳は、口角を少し上げて笑う。




 あれ? なんか記憶にある瑠佳君の天使のような笑顔と違う。




 あれ??




「どうぞ」




 笑い方に引っかかるものを感じたけれど、どうぞと言っているチャンスは逃せない。




 細かいニュアンスに拘ってはいられないのだ。


 うん。なんでもかんでも聞こう。遠慮はいらない。だってこんな特殊な状況なのに知り合いな訳だし。




「平安時代に似てるけどここは異世界で、そして瑠佳君は貴族なんだよね。それで先生の家のインターホンを鳴らしたの君だよね?」






 もっすごくストレートに、あなたが犯人ですかと聞いてしまった。




 もやもやしていても始まらないもん。


 聞こう、聞こう、さっさと聞こう。






「香の匂いは不思議ですよね。空間と空間を繋ぐ膜を曖昧にするから、僕と凪子がまた会えた」




 瑠佳は扇を開いたり閉じたりしながら、静かに話し出す。






「いつでも繋がる訳じゃない。数年に一度、時間軸の狭間に月の光が入り込むと、人が渡れる橋が出来るのです」






「??」






 えっと……。なんか詩的な表現が始まりまりたよ?




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