24話 魔王襲来
「げ! パパ」
彼の登場には俺らだけでなく、プレミアム会員たちも、パスキュールも引きつった顔を見せる。
皮肉なことに唯一表情を変えなかったのは本来なら一番顔芸をしてくれそうなシリアだけ。
しかも周東としてではなく、いきなり魔王スタイルで登場するもんだからプレミアム会員たちも半分くらいは失神しちゃってるし。
「おい、パスキュール。何勝手にこんなたくさんのお友達を引き連れてきてんだよ」
「い、いや~これはその~。なんて言うか? みんな来たかったらしくて」
「ちなみに、お前俺のもとに来てたキーラちゃんからのお誘いの手紙もどっかやっただろ!」
「アハハ。あれは、そうあれだよ。罠だから捨てておいた」
「んぁ! 何が罠だ。キーラちゃんが俺の事を騙したとでもいうのか! んなわけ無いだろ。キーラちゃんは日ごろの疲れを癒してくれるって言ってくれたんだ。にもかかわらずてめぇーは昨晩のご飯に睡眠薬混ぜやがって。よくも俺を眠らせてくれたな!」
「もぉ~だからそうやってパパの事を守ってあげたってのに何で分からないのよ! この分からず屋」
「はぁ⁉ それが親に対する口の利き方か!」
「私は魔王の子なのよ! そんくらい普通でしょうが!」
「あ、う、うん。まぁ」
そこでたじろぐな魔王! お前そもそもの父の威厳とか無いのかよ! 魔王の子供ならどんな悪ガキが育ってもいいのかよ‼
と、そんなくだらない言い合いをしている間に空気が読めないドワーフ小学生はよその娘をハンマーで殴り放題。
「あ~そんな事父親の前でやったら絶対キレられますよ」なんて言葉が届くわけも無く。
「あ、あれ、私何してたんだっけ」
とシリアが正気を取り戻せば、それが何を意味するかなんて言わずとも…………。
「お前! よくもうちの娘を」
と、逆鱗を通り越した魔王はすぐさま魔法陣四つくらい用意してはステージを吹っ飛ばしてくれちゃって。
「ドアホはどっちだ! これから戦う相手をあんなガンギレにさせてどうするんだよ!」
「しょうがないじゃありませんか。バカシリアを助けてあげなきゃならなかったんですから。あの瞬間くらいしかチャンスがなかったんですよ」
「それは言い訳。タイミング、もっとあった」
ほら、情報処理に関しては完璧なラグナリアだってこう言ってるじゃないか。
ちなみにもう一人、パスキュールの洗脳が解けたあの魔王様のお気に入りは、
「あぁ♡」
と、床で復帰したものだからもう一度魔王の足に潰され、地面に埋まって、それでも恍惚な表情を。
「とにかくラグナリア。あれを倒す方法は?」
「魔王を倒すには魔王と同等の力が無いとまず不可能」
「で、その力を持ってるのは」
「勇者」
「つまりは翔って事ね」
シリアがさっきまでとは違い調子を取り戻したように俺の背中をたたいた。
いや待て、勇者は俺じゃなくて、俺の兄でしょうが。
「いや、この世界、この場において勇者になりうるのは翔だけ。つまり翔が勇者」
「って言ってももはや魔力無いんですけど⁉ なんなら武器も無いから戦える要素さえ無いんですけど‼」
「それでもやるのが勇者ってものよ」
とシリアがいつものような無茶ぶりを発揮し。
「メルはいくらでも力貸しますよ」
とちょっとだけ頼もしそうなことをメルちゃんが言い。
「努力と根性」
と超理系がまさかの根性論を押し付けてきた。
ついでにラグナリアはサポートスキルという名のステータスを上昇させてくれるバフをかけてくれたけど戦闘能力ゼロ俺にそれは意味なくねぇーか?
当然そんな見せかけの力をまとってパンチをしてみたところで。
「ですよね~」
というしか出来ないくらいの手ごたえの無さ。そして数十倍のパンチが返ってくる。
もうヤバいよ。さっきパスキュールに剣でお腹突かれただけでも苦しかったのにこんなパンチ永遠食らっていたら命が持たねぇ。
一応シリアやメルちゃんたちも魔法は放ってくれているようだが全く持って効いている様子が無いし。
あぁ俺たち魔王をちょっと舐めすぎていたかもな。
「じゃあそれでこの世界が無くなっても翔は良いのか」
その時俺の脳内では遠く聞くことは無かった懐かしい兄の声が響いてきた。
「いいわけが無い」
その頭の中の声に俺は心の声で答える。
「お前は今、守るべきものをたくさん背負って戦ってるんだろ。そんな簡単に諦めていいのか?」
「でも……」
「でも、何だ? 攻撃が通らないからってすぐに諦めるのか? お前ゲーム好きだっただろ。あんとき強敵が出てきたらどうしてたよ」
「回復ガン積みで強行突破」
「あぁアハハ~。そういやそんな事もしたな。二人で協力プレーしてんのに剣を振るコマンドと回復アイテムを使用するコマンドばっかり連打して。でも今なら回復してくれる奴が傍にいるだろ」
俺はなぜか左を向いた。そこにはさっきとは異なり、真剣な表情で木属性や風属性の魔法を放つシリアが。
「俺たちがゲームしてた頃はお互いにカッコよくなりたいからってアタッカーアバターばっかり作って苦戦してたけど今はヒーラーがいる」
そうだ。シリアなら俺が死にそうになっても異界の力とやらで蘇生だってしてくれるかもしれない。
「それに攻撃だってお前だけの仕事じゃ無いだろ」
今度は右を向けばそこにはメルちゃんが。小さい体ながら必死にハンマーを振り回す彼女が。
「あんな火力馬鹿がパーティーにいるだけで力強いことは俺や翔ならよく知ってんだろ」
そうだ、彼女の攻撃も効いているようには見えないが、それでも意味はあるはずだ。魔王もそれなりに反応を見せているし、攻撃を受けないよう抵抗だってしてるのだから。
「それに翔の元には最強の攻略本だっているんだろ」
後ろを振り向けばそこにはシリアとメルちゃんに指示を出すラグナリアが。俺たちは必死にネットで調べていた攻略情報を一発で叩きだしてくれる超有能が。
「翔は今一人じゃないんだよ。みんなに囲まれている。みんなに助けられている。そりゃあんな魔王に一人で立ち向かおうなんてするだけバカってやつだ。絶対勝ち目無い。でもそうじゃなければ……」
そうじゃなければ勝ち目だって……。
俺は再び立ち上がり、この目で魔王を捉える。そして彼に向けて走り出す。
「雑魚が! 何回突っ込んできたって痛くも痒くもねぇーわ」
「雑魚はどっちだ。真正面から突っ込んでくる俺に気を取られすぎだ」
すぐさま魔王の後ろ側まで回り込んでいたメルちゃんこそ攻撃の本命。あのハンマーを魔王の足首のあたりにドーンと。強烈なる一撃をお見舞い。
俺にばかり気を取られていた魔王はそれだけでバランスを崩し。
「シリア!」
「言われなくても」
その崩れた態勢に追い打ちをかけるように風魔法の強風を。さっきまで前傾姿勢になっていたところに煽るような猛風が来るものだからさすがの魔王もバランスを保ちきれない。
体育祭で登場する棒倒しの棒のようにフラフラと自分の体を保つために精一杯なご様子。
「これなら」
俺は魔王の大きな体を子虫のように足から登り、そして腹部まで到着したところでジャンピングパンチ!
確かにフラフラした魔王の上を走っていたもんだから足場自体は悪かったけど、それでも俺のジャンピングパンチは見事に決まり、魔王は仰向けの状態で初めて地面に背中を付けた。
「っしゃー!」
俺やメルちゃん、シリアなんかはもう大喜び。なんせ魔王にこれだけの攻撃を食らわせたのだから。
ただ一人。ラグナリアだけはまだ深刻そうな表情をしていた。
「まだよ」
と。彼女が一声上げるとほぼ同時、大きな巨体はゆっくりと、再び立ち上がり。
「お前らよくもやってくれたな!」
咆哮を響かせた。
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