四章 英雄凱旋

21話 千歌のプレミアムライブ



 そしてキーラの仕事が早いこと早いこと。


 三日後にはキーラと周東の写真が載った雑誌が家に送られてきた。



 そこには目を伏せたくなるようなベッドでのあんなことやこんな事。多プレイ可能の異名は伊達ではないらしい。



 これならどうせすぐにテレビでも大騒ぎになるはず。むしろテレビで取り上げられれば家の周りに記者が集まって魔王討伐どころの騒ぎではないことも考えれば攻めどきは今しかない。



 娘が居ながら他の女と熱い抱擁を交わしていたとなれば社会的にどう転んでも悪である。それを討伐する俺たちは必然的に大正義だ。



「善は急げだ。すぐにあいつの家に行くぞ」



「うん」「もちろん」「はい」




 と三者三様よろしい返事で俺たちは家を出た。


 


 *




 流石に討伐しに来た魔王のインターフォンを押して「こんにちは」というのはいかがなものか。



 正直小説とかでファンタジー系もよく読む俺としては複雑な気持ちだったが現代世界に置き換えれば、門の前で「たのもー」という行為と差異ない。



 しょうがないからインターフォンを押して家を開けてもらうしか無いのだ。



「は~い」



 インターフォンの向こう側から若い女性の声がし、数秒後に戸から出てきたのはメイドさんだった。



 魔王にメイド。まぁ無くない設定だが、本当にメイドを侍らせているとは。ちょっと羨ましい。



「っていうかこのメイドさん魔王の手下とかじゃないよな?」



 少し気になって俺はラグナリアに耳打ちしてみた。



「大丈夫。見た感じ普通の人間。というか魔王の手下はあっちの世界で勇者様が全部倒してくれたからこっちの世界にいるはずがない。パスキュールだけは私たちを襲って来ないで、部屋に籠っていたらしく倒せなかったけど……」





「で、本日はどういったご用件で」


  あ、えっと……。


 ご用件。そうかすっかり忘れていた。いや、つくづく現実世界でファンタジーやると問題ばかりじゃないか。



 魔王城に「たのもー」と来て用件を聞くメイドはまずいない。何せ魔王城にやって来る目的なんて魔王討伐しか無いのだから。それゆえに何も問われずメイドが薙刀やなんやらを振り回してくる方がテンプレートだ。



 だが、今は普通に見ればただの政治家の家にやって来たただの高校生。相手が普通に人間のメイドさんなら「魔王討伐しに来ました」で取り合ってくれるわけが。



「えぇでは中に」



「はえ?」



 正直俺の頭の中で「?」が隠し切れなかったが、どうやらシリアがバカ正直に「魔王討伐に来ました」と言ったところ中に入れてくれたらしい。



「そんなわけあります?」



 とツッコみたくなるが。ってか俺の懸命に考えた思考時間を返して欲しいくらいだが、まぁ入れたならそれはそれでいっか。



 一度周東の家は覗いたこともあったが入ってみると格別。普通に豪邸だし、普通に豪華。部屋数も俺の家の十倍くらいあるのではないだろうか。



 そんな華々しい部屋へや部屋べやを通り抜けて階段を下り、通されたのはまるで体育館のような何もない広い空間。



「こちらです」



 とメイドさんが俺たちを中にいれ、四人全員が入ったことを確認し、扉を閉めた。



 そして「ガチャ」と。ホラーゲームでありがちな……。



「ちょっと待て! おい、コレ閉じ込められたよな」



 ラグナリアがすぐに確認してくれたがどうやら間違いないようで。




 あぁなるほど。俺たちをこの地下室に閉じ込めれば魔王としてはそれで万事解決なわけだ。盗聴器に気付かれたのか何なのかは知らないが、探りを入れている俺たちさえこの世から消してしまえば周東の計画が壊れることは無い。



 だが、その時目の前のステージにスポットライトが集中し、一人の少女が浮かび上がった。



「は~い。みんな元気! 今日はプレミアム会員限定のライブだよ~」



 その少女はいつもと変わらぬツインテールに赤いリボンを結び付け、フリフリの衣装を身にまといながら、覚えるために何度も何度も俺が耳にし、口ずさんだ曲を高らかに歌い始めた。



 視線を落とせばそこにはサイリウムを振り回しながら少女よりも華麗に踊り狂う猛者どもが。



「ねぇ。何この時間。私たちライブを見に来たんじゃないんだけど」



 シリアを含め女の子達はまるっきり興味ないのかそんなことを漏らしていたが、まさかプレミアム会員だけでこんなライブが開かれていたとは。



 その驚きの方が大きすぎてもはや魔王なんてもうどうでもいい。


 


 一曲目が終わったところでステージ挨拶の如く少女――杉崎千歌のトークが始まった。



 だが、様相はいつもと違う。




「今日はね。プレミアム会員のみんなのほかにも、お友達を呼んでみたんだ」


 と、ステージ上で手を伸ばせば、彼女にあてられていたスポットライトが一瞬で俺たちの方へと。



「今日は、この人たちにも来てもらいました。実はこの人たちは私のだーい好きなパパの事を倒そうとしてる人たちなんだ」



 まるで悲劇のヒロインかのように。はたまたあざとく守ってあげたくなっちゃうようなけなげな少女のように。



「私は~、パパの事を悪魔たちから守ってあげたいんだけど~、全然力が無くって」



 そう語れば目の前にいるプレミア会員従順なる下僕たちがどう動くのか織り込み済みで。



「なら俺たちが」


「あいつらをボコボコにしてやりますよ」 




 と。ステージ上ではバレないようニヤニヤしながらその声を聞いていた。




「ホント⁉ 千歌めっちゃ助かっちゃう」



 ただ単純な男どもはそれだけでも士気を上げることができる。



「そ~んな、みんなに千歌からのプレゼント」


 そして彼らファンたちの前に降ってわく本物の真剣たち。



 加えて最後のとどめは千歌たんのとびっきりかわいい笑顔の言葉。



「これを使ってあいつらの事~」




 『ぶっ倒しちゃって☆』











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