18話 メルちゃん脱出大作戦



 メルからの連絡を受け取った。が、それなりにピンチらしい。



「やっぱり救援に来ておいて正解だったな」



 にしても、まさかラグナリアのやつ、車に発信機までつけておくという超ファインプレーを。



 おかげで、アジトを一瞬にして突き止めることに成功。それにラグナリアの機械は彼女のデータベースに直で情報を送り込んでくるらしく費用の掛からない超ハイスペック。何なら盗聴器購入代を返してほしい。



「とにかく、ピンチらしいからシリアは玄関先でもう一芝居。ラグナリアと俺は裏からメルちゃんの救出に向かうぞ」



「って! ちょっと待ってよ。なんでまた私は演技なのよ。レパートリーもうないんだけど⁉」



「そこを何とかするのがシリアだろ」



「あんたエルフをなんだと思ってんのよ」



「それでもメルちゃんは仲間だろ」






「…………わかったわよ」



 何を考えたのか知らないが逡巡しゅんじゅんする時間を隔て、シリアはそう答えた。



「任せていいな?」



 念を押せば彼女はこっくりうなずく。



「よし、ラグナリアはこの部屋から玄関以外で脱出できる場所を探してくれ。なるべく早く。シリアが時間を稼いでいるうちにそこからメルちゃんを脱出させる。携帯もつながっているみたいだから俺はラグナリアが開けてくれた場所に彼女を導くから」



「任せて」



 それだけ言い残すとラグナリアの方はすぐに行動を開始してくれた。









「弟君。この窓開いてる」



 それは俺とラグナリアで捜索を始めてすぐに。ほんと機械族エクスほど泥棒に向いている種族はないのではないかというくらいの手際の良さで。



「メルちゃん。聞こえてる」



「はい!」



 安否確認完了。



「一階にある庭園側の窓って分かるか。こっからだと家にあるツボみたいなものが見えるんだけど」



「ツボ⁉」



 そんな驚き声をあげていたがそれと並行して聞こえる彼女の呼吸音から感じ取れるのはそう長く持たないという事実。場合によってはここから侵入して助けに行く必要があるかもしれない。



「ツボ探しているからそのついでに聞きたいんですけど、今インターフォンを鳴らしたのもメルの知ってる誰かですか?」



「シリアだ。上手くいってるっぽいな」



「全然上手くいってないです‼ まさかあの子一人ですか?」



「そうだけど」



「めっちゃ玄関で周東怒ってんですけど⁉ あっちのほうがどうやって救出――――あ!」





 その瞬間左手を耳元に当てながら走るドワーフが俺の目に映った。



「メルちゃん急げ。こっちだ」



「言われなくても!」



 感動の再開。チョコチョコと走ってくる彼女を見ていると、まるでわが子の帰還を歓迎するような。




「確かにシリアが危ない」



 ちょ! 雰囲気ぶち壊さないでくれますラグナリアさん。



 だが、空気を読めていないのは俺だけのようで、ラグナリアも走ってきたメルちゃんでさえもすぐに表のほうへと走っていった。 



 そこにはたくさんの黒服の人に囲まれたシリアが。



「さて、お嬢ちゃん。どうしてこんなところにいるのかそろそろ話してもらおうか?」



 その中心では周東が眉間にしわを寄せながら問い詰めていた。


 まるで鬼の形相を形容したかのような。それにはシリアも震え上がるしかない。



「あのピンチを助ける方法って……」



 ったく、俺が行くしかないんだよな。


 ポケットから例の手帳を取り出し、そしてラグナリアに耳打ちを。









「あ! 周東さん。申し訳ありませんうちのアイドルが」



 駆け足に俺は叫びながら彼らの前へ。


 シリアが「翔!」って言おうとするもんだからその口を必死に抑えて。



「警視庁のものですが、このお嬢さんが行方不明になったとそちらの男性から捜索願が出ておりまして」



 と完璧なラグナリアのフォローにも助けられながら。



「はい、ここで見つけられて本当に良かったです。うちの子が何かご迷惑をおかけしましたか?」と。



 筋書きとしては東京に出てきたばかりのアイドルが東京観光をしていたら勝手に失踪。それ故にマネージャーは警察の力を借り、国家権力の名のもとにこの地を割り出した……と。



 一応、アイドル姿で突っ込んで行った以上、例の運転手がいることも考慮するとこうするしかなかった。



 にしても似すぎる警察コスプレに警察手帳の偽装。搭載済み3Dプリンターとなればマジでラグナリア大罪人。



「ったくどこの娘か知んないですけど気を付けてくださいよ」



 と周東の方も半ギレではあるが警察が来たんじゃこれ以上理不尽にキレることも出来ないのかそのまま家の中へと戻っていった。










「ふ~」


 どっと疲れがたまった。


 が、なんだかんだ言っても作戦は成功だ。



 無事に周東の家の中に盗聴器を仕掛けることに成功したし、こうして仲間たちも救い出した。



「あとは、ここで野宿するだけか」



 その一言に女の子たちの、いや、シリアの表情が一変。



「え⁉ 私たち野宿なの?」



 聞いてませんよそんな話。と言わんばかりの表情。そりゃ仕方ないでしょ。安物の盗聴器使っているんだから。半径一キロ範囲を出ちゃうと何にも聞こえなくなっちゃうんだよ。



「別に問題ないだろ。話聞く感じだとあんたらあっちの世界で野宿ばっかりしてたっぽいし」



「し、してたけどそれとこれとは話が別でしょ! やっと安定した家がある生活を送ることが出来る世界に来たって言うのに野宿だなんて」



「でも、それをしないと周東が魔王だという情報をつかむことは出来ない」


 メルちゃんもラグナリアも野宿の覚悟は出来ているようで、せっせとどこから持ってきたのか寝袋の用意などしてくれているし。後はシリアが「うん」と頷いてくれれば終わりなんだけど。




「それとも何か? お前だけ一人で家に帰るか?」


「帰らないわよ! 仲間外れは嫌だし」



 結構チョロかったわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る