14話 魔王の正体?



 そんな貧窮した未来を思い描き、めちゃくちゃ重い空気が流れる中、たった一人、何も心配しないような、いつもと変わらない声で。



 ラグナリアはテレビに流れる人物を指さし、




「あ、魔王だ」 と。



 ついに魔王もテレビに出れるようなご時世に――。





って、んなわけあるか‼





 彼女が指さした先にいたのは、最近テレビで見ない日は無いってくらい映され、もはや政治関係には一切興味のない俺でもその名前を知っているような有名政治家――――周東正之しゅうとうまさゆきだ。



 四十代くらいの渋い顔つき、口周りには遠目に見て分かる程度のひげを残し、たばこを吹かせて歩くただのおっさん。


 確かに彼がここ半年くらいであり得ないくらいの支持者を一気に集め、男なのに政治のシンデレラストーリーを駆けあがっていると揶揄やゆされるくらい力としては人間離れしているが。



「だからって魔王なんて。そもそもお前らの見た魔王は本当にこんな感じのおっさんだったのか?」



「いや。もっとザ・魔王みたいな感じでマント羽織って、人間みたいな顔つきじゃなくて、それに杖も持ってたよ」



「そうです。魔法なんかも普通に使っていましたし。少なくともメルたちと対峙した魔王ではないです」



 と、誰もがあざける中、彼女だけは真面目にこの周東という男が自分たちの倒し損ねた魔王だと主張する。



「これは魔法か変装のどちらかでこの世界に溶け込んでるだけ。私は一度見た人とか物の見た目と名前は絶対に忘れない。データベースとの照合率も八十パーセントを超えてる」



 が、さすがにそんな話を信じられるわけもない。



 俺はともかく一度魔王を見ているシリアとメルちゃんでさえ否定しているんだ。それに仮に彼を襲ったとして、もし魔王じゃ無かったら? もはや取り返しのつかなくなること間違いなし。



 今もテレビの中からは彼を崇拝する人たちがインタビューを受け、



「周東さんが労働時間改善の法案を通してくれたおかげで、定時に帰れるようになりました!」


 と感謝の意を表す周東と同じくらいのおっさんがいたり。



「周東さんが消費税を上げてくれたおかげで俺たちの将来負担しなければならない金額や年金の確保が出来て安心しました」


 と大学帰りの学生は高揚気味に語り。



「あの人のおかげで幸せな老後が暮らせそうですよ」


 と高齢者福祉充実の実現をたたえる老婆が写された。



「これだけ人間に人気を集めている政治家が『異世界から来た魔王でした』なんてオチ一体誰が信じるんだ? そもそも仮にこいつが魔王なら何でこんな人間のためになるような仕事をしてるわけさ」



「そう言われると分からない」



 さすがに分かるのは見た目、声、しぐさや行動から彼が魔王と判断できるだけで、彼の心の内までは分からないとラグナリアは肩を落とした。




「でも、ラグちゃんがここまで言うって事は本当に彼が魔王なのかも知れないよ」



「だから! だったら彼が魔王だという証明と行動の意味を」



 少々、自分も理性を保てていなかったのかも知れない。これからどうやって生活していこうかという不安がストレスとなって俺に降りかかっていたせいもあり、少し言葉が強くなってしまった。それにも関わらず、シリアは表情一つ変えずに。いや、何なら笑顔の方向に表情を変え、



「それを一緒に調べよ」と。



「調べてこの男が魔王だって分かればそれで倒しておしまい。普通の人間だったらまた一からのやり直し」



「そんな事している余裕……」



「でも、何もしなかったら何も動かない。ただお金と時間だけが無くなっていくだけでしょ。そんな事していると、そこのメルみたいにあっという間に一年が経っちゃうわよ」



………………。



「例え見当違いだったとしても良いじゃん。調べているうちに別の人間が魔王だって事が分かるかもしれないし、違う手掛かりが得られるかもしれない。行動しない人に、天は何も与えてくれないよ!」



「――って、健君に教えられた事なんだけどね」




 最後にハニカミながら一言付け足した。




「分かったよ。でも調べるたってどうやって。別に俺たち探偵とかでもあるまいし」




「私たちは私たちらしくやるだけよ」

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