13話 ハイスペック☆ラグナリア
「って! お前何言ってんだよ」
だが、俺の突っ込みに「逆にお前何言ってんの?」と口には出さないもののポカンとした表情で見つめ返すはラグナリア。
「だってセックスこそ人類存続において最も合理的で最重要な案件。異性が己の部屋に舞い込んできてやることって言ったらそれしかない」
ドヤ。とそんなエフェクトが似合うくらい満面自信に満ち溢れて。
むしろ俺とシリアが、なんならメルちゃんが一緒に同じ屋根の下で一晩を過ごしたにもかかわらず何も無かったの? と。
「お前、機械って言ったよな。ねじの一本や二本もとの世界に置いて来たんじゃねぇーのか」
「心外。私は平常運転。いつも通り」
「それはただの痴女やで」
「理解不能。弟君は人間の行動理念に反している。人間は私たちと違い生産されるものではないから、繁殖行為が必要」
もちろんそこに間違いは無い。
「故に、人間はいつ何時もセックスが必要」
問題はそこだよ!
「あのな、人間はなりふり構わずどこでもそういう繁殖行為をするわけじゃねぇんだよ。理性ってもんがあるからちゃんと場所と時間をわきまえて」
「理解不能。昨日箱が言ってた。この国は少子化だと。だったらなりふり構わずヤリまくったほうがいい。子どもたくさん作ったら解決。違う?」
「間違っちゃ無いけど、それはただの理論だ。想いが含まれてない」
あと、お前らみんなテレビのこと箱って……。
「それに
「家電量販店の山田さんが見せてくれた。と言うか飾ってた」
らしい。やさしいな山田さん。文無しにもテレビを見せてあげるなんて。
「別にどこでその情報を知ったかは問題じゃない。とにかく想いなんてまどろっこしいものがあるから人間は非合理的」
「それをなくしたら世界が崩壊する」
「国中でセックスし放題になればそれで解決」
「そこに楽しさも快楽も無い。それじゃただの作業だ」
「ただの作業で何が問題?」
「誰がただの作業で作られた人間を愛し、育てようと思うんだよ。いろいろ思い悩んでやっと決意して、初めて子作りをするんだ。そんなホイホイやってる奴らは野生動物となんも変わらないんだろ」
「それはあくまで童貞の粋がった持論。交わることの気持ちよさを知らないからそう思ってるだけ」
「だ、誰が童――――」
「私はこれでも
「お前、恐ろしいな」
「提案。さっきの店員は回数百を越えてた。もしかしたらお願いするとヤラしてくれるかもしれない」
マジこいつヤダ。人間にとって害悪でしかない。なんならこいつを魔王認定して、シリアとメルちゃんに倒してもらい彼女たちを元の世界に返してやろうぜ。
「と、下らない話はそこまでにしてまじめな話。いや、さっきも人類にとってまじめな話だったけど今度は私にとってまじめな話」
一言余計だったな。一文目でやめてくれれば快く聞いてやろうって気にもなれた
のに。
「で、そのまじめな話って?」
「知ってのとおり私は家が無い」
「うん。そうらしいな」
「それに私は
それは俺をチョロく見てるってことじゃありませんか痴女さん。
「だから私を家に入れて欲しい」
「家ならお前がお世話になった山田さんに匿ってもらえば?」
「山田さんは夜になるとシャッターを閉めてしまう」
山田さんの警備が厳重なこと。
「で、じゃあ逆に何で俺の家なんだよ?」
「勇者様の弟君なら前提としてシリアの知り合いらしいから私たちに対しても理解があると推定。それに私も魔王を倒さなければ元の世界には帰れない。だったら同じ境遇であるシリアと一緒にいたほうが安心」
それこそ合理的で論理的。と言うものらしい。
「もちろんタダでとは言わない。何でもする」
「何でも……。そういや料理担当が欠落しているんだけどラグナリアって料理できるのか?」
だが、俺の言葉に心底がっかりしたように、
「これだから童貞は」と。
え? 俺何か間違ったこと言いましたか?
「分かった。料理ならできる」
だが、それ以上詳しく彼女の頭にあったことは話さずに、俺の家で料理人をすることが決定した。
まぁ彼女の料理を見るまではあくまで仮契約だが。
*
「ここが家?」
彼女は俺の家の前にたどり着くや否や辺り一帯を見渡す。まるで俺の生活レベルを見定めているように。
「意外。もっと質素な建物に住んでると思った」
と。彼女は失礼の概念を知らないらしくズカズカと。
「そりゃそうよ。健君の弟なのよ。そんなへんな家に住んでるわけ無いじゃない」
まるで自分の家であるかのように誇らしく語るシリアはたった一日しか住んでいない俺の家をくまなく案内した。
いや、くまなくは嘘か。必要最低限の場所。お菓子のありか。あっちの世界には無いもの(主に和室)を宣伝。
「とにかく早速だけどラグナリア。料理を作ってみてくれ」
それこそ彼女をこの家に住まわすかどうかの判断基準。もし、シリアやメルちゃんと同じようなゲテモノを出そうものなら瞬間で家を追い出す準備は整っている。
「任せて」
だが、そんな心配はしていないのか、彼女は
少しして、俺とシリア、そして料理中にカムバックホームしてきたメルちゃんが囲むテーブルに料理が運ばれてくる。
ラグナリアが何度もこのテーブルと台所とを行き来する度たびに机の料理を増やしていき、しまいには乗り切らないからと、まるで飲食店のように後で運んでくれるんだとか。
そしてそこに並べられたものにまた驚愕。
「お前、コレ マジで寿司やん」
目の前にあったのは、キレイに縦長の丸みを帯びた白くフワフワしたご飯の上にキラキラと輝きながらおんぶされる魚たち。
さばき方なんてどこで学んだのかバカみたいにデカくなく、貧相にも見えない。何なら黄金比というものをしっかり押さえてさえいた(まぁ俺も寿司の黄金比なんて知らないからなんとなくだけど)。
それだけじゃない。その隣には焦げ茶色のきれいな焼き上がりを見せる唐揚げが。奥には満月のような黄色にカマボコやシイタケの添えられた茶碗蒸し。
「お前、これ一体」
「全部私が作った」
もちろんずっと見ていたから知っている。が、あいつらが作ったのは確実にあっちの世界の物を無理やりこっちの食材で作った雰囲気のある品だったのにラグナリアの作ったものは全てこの世界で、いや日本で食べるものばかり。
「なんでこんな料理知ってんだよ」
だが、それに答えたのはラグナリアではなくシリアの方で、
「これ! 確か健君がアクアレインに行ったときに作ってくれたやつだよね」
と寿司を指さしながら一言。
「こっちはチキン牧場でお肉をもらった時に作ってくれたやつです!」
シリアにつられるように今度はメルちゃんが唐揚げを指しながら。
「そう。これは全部勇者様が私たちの世界で作ってくれたもの。今まで見たことも食べたことも無い味だったけどこっちの世界に来て理解した。あの食べ物たちは全て勇者様がこっちの世界にいた頃に食べていた物」
それを一度兄ちゃんが料理しているところを見ただけで完コピできるようになったらしい。
「今まで食材が無かったから使いどころは無かったけど」
とは言え、兄ちゃんがどれだけの料理をしたかは知らないが彼女が居れば本当に俺の食事は安泰になる。
俺はそう思った瞬間、ラグナリアの手を取り、
「ありがとう。これから料理よろしく」
と懇願してみた。
むしろ無料でここまでの料理が食べられるなら居候なんていくらでも。
彼女はその手を握り返しただ一言「ハイ」と答えた。
それからしばしはご飯を囲みながらの団らん。
専ら話題は彼女たちについてだが。
「で、こんな短期間で兄ちゃんと共に旅していた人がこんなにもたくさん揃ってんですけど……」
「そんな事私を見ながら言われたって知らないわよ。私はもともとこの家に転生してきたんだから」
「メルだってやっと仲間に出会えて安心できてるんですから追い出したりなんてしないですよね?」
「私は正式に認められた身ですから」
と、各々の主張を。確かに俺も追い出す気は無いんだけどさ……。
「うちの家計的に三人も養うなんて無理なんだけど」
多分満足に生活が出来るのは半年がいい所。今から節約したって二年は持たない。
「お前らってあっちの世界にどうやったら帰れる訳?」
「そりゃ私が来た時からずっと言ってるじゃない。魔王を倒せたら帰れるんじゃない? って」
「でも、その魔王は俺たちのいる世界にはいない」
それだけで沈黙が起きてしまう。
これじゃ脱出ゲーム(※出口はありません)と同じだ。永久にこの迷宮の中をさまよっているだけ。つまり終わりの見えない中で彼女たちを生かしていかなければならない。
兄ちゃんがどんな世界にいたかは知らないけど、あっちならモンスターを倒して肉や金を獲得できたらしい。だが、それもこの世界では不可能だ。この世界の原理としては、働くことで金を稼ぎ、そのお金と商品を交換するしかない。
そんな貧窮した未来を思い描き、めちゃくちゃ重い空気が流れる中、たった一人、何も心配しないような、いつもと変わらない声で。
ラグナリアはテレビに流れる人物を指さし、
「あ、魔王だ」 と。
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