12話 君は偽物



 だが、そんなツッコミにも彼女は平然として。



「無理よ。私もお金ないもん」



 そのぐうの音も出ない正論に俺の方が閉口してしまう。


 金が無ければ救えない友情。ちょっと意味は違うかもしれないがそれを体現させられた気分だ。



「分かった俺も行くから」


 すぐに俺は彼女――――ラグナリアの元に駆けつけ、彼女を拘束。



「すいませんこの服いくらですか?」



 その勢いに困惑しながらも店員さんは「1200円」と一言。俺は財布の中から野口さんと桜の花を二つ置き、そのまま彼女を連れ去った。


 人気のつかない裏路地まで。









「何?」



 これだけのことをしてあげて温情というものはないのか、彼女は冷たく一言。



「あのな、お前の――――」



 バリスがこの世界では通じないことを懇切丁寧に教えてあげようとしている俺に対して、それをもさえぎり、



「あなたは何者?」



 と。彼女の瞳からは敵対の意思がはっきり読み取れる。明らかにシリアやメルのときとは反応が違った。



「なぁシリア。こいつ兄ちゃんのこと知らないのか?」



 と、耳打ちで確認。それに対して彼女も首を振った。



「彼女も一緒に旅をしていた仲間よ」


「なら……」


「シリア。その男から離れたほうがいい。その男は偽者」



 機械音が忠告を告げるかと言うくらい抑揚無く。だが、その声は確信に満ちているのか揺らぎも無い。



「改めて問う。あなた何者? 勇者様の振りをしてシリアをたぶらかしてどうするつもり?」



「別にたぶらかしちゃいない」



 むしろ養っているくらいだ。



「嘘」


 彼女は断定。一体何を根拠にしてだよ。



「じゃあなぜあなたは勇者様に顔を似せている」


 似せてもないし、なんなら兄ちゃんと顔が似ているなんて親も含めて昨日まで言われた事も無い。


 シリアと出会って初めて勘違いされたレベルだ。だが、ラグナリアは俺の言葉なんぞ一切聞き入れず。



「あなたが勇者様の真似を続けて私たちに何かするというなら私はあなたを殺害する」



「おい、シリア。どうしたらこいつに俺が兄ちゃんでも無ければ、別に成りすましをしているわけでもないって伝わるんだ」



 少し悩んだ末にシリアが出した結論。



「無理ね」



 おい、ふざけんな。ここまで来て俺のことを見捨てる気か。



「ラグちゃんはそういう子だもの。彼女の演算は完璧で、でもそれゆえに自分が出した答えこそ真実だって思い込んじゃうタイプ」



「最悪な自己中やろうじゃねぇか」



 だが、その自己中は俺とシリアが話している時間さえ惜しいのか「最後の弁解だけは聞いてあげる」と許す気さらさら無い声音で。



「シリア、俺が言っても無理っぽいから仲間のお前から言ってみてくれ」



 最後の望みを掛けて。



「ねぇラグちゃん? この人は大野翔って言って健君の弟君なんだよ」



「弟?」



「そう。だから健君とは似ているかもしれないけど違う人間なの」



 そう言われ、長考に入るラグナリア。もしかしたら「シリアは騙されているだけ」とあっさり拒絶されるパターンも想定していたがこれはもしかしたらがあるかもしれない。



「じゃあ確認」



 そこでラグナリアが提示してきたのは三つのクイズ。



「健の年齢・好きなもの・私と出会った場所を答えて」



 もちろん年齢と好きなものはそれなりに想像がつく。が、ラグナリアと出会った場所など皆目検討もつかない。そもそも年齢だって六年間兄ちゃんはそっちの世界にいたのだから何歳と答えるのが正解かも分からないし。



「歳は十七。好きなものはラノベ――――本って言った方がいいか? あとお前と出会った場所なんて俺は知らない」



 何を試したクイズかは答えた今もはっきり分からない。が、それでも――――。



「了解した。あなたを弟君と認定。呼称は弟君……でいい?」



「別に何でも」



 なぜ認められたのかもよく分からんがとりあえず一件落着したらしい。




「で、改めて一応聞くけど、ラグナリアはこんな所で一体何をしていたんだ?」


「見て分かる。買い物」



 成り立ってなかったけどな。



 だが、この様子を見る限りメルちゃんとは違い彼女も転生というか転移してきてそんなに長くは無いのだろう。



「そもそもラグナリアはどこかの家がスタート地点とかじゃないのか?」



「私が飛ばされてきた場所はゴミ箱。いや、ゴミ捨て場。黒い鳥が周りの袋を突っつきながら食料をあさっていた」


 何て場所に。え? 「転生先はゴミ捨て場でした」って夢のかけらも無ぇよそれ。



「とにかく臭かったからそこを逃げ出し、今に至る。一晩は路上で過ごした」



「何でシリアがこんな裕福な暮らしをしてるのにこいつはこんなサバイバルしてるんだよ。ってかゴミ捨て場に転生したとか絶対臭いでしょ」



 と言いながらも目の前の少女から異臭が放たれているとは思えなかった。そんな話を聞いた後でさえ一切臭いを感じない。



「大丈夫。私は機械種エクスだから。臭いを体につけないくらい余裕」



 と。一切意味の分からないデタラメで彼女は臭いを寄せ付けないことが出来るらしい。



 まぁ後からシリアに聞けば機械種エクスとはあちらの世界の種族で、こっちの概念に直したらロボットといったところらしい。故に体臭みたいなものも無ければ抗菌仕様で衛生的にも問題ないとか。



「逆に質問。弟君はシリアをたぶらかしてどうするつもり?」



 一応俺が偽者でないと分かってからもその疑いは晴れていないらしく。



「別にどうするつもりもねぇよ。こいつが魔王を倒さないと帰れないとか言うからとりあえず養っていると言うか匿ってるけど……」



「何その非合理的な理由」



 だが、ラグナリアには嘘偽りなきこの答えで納得はしてもらえず、「裏に隠した思いがある」と、かろうじて言えば俺が「兄ちゃんと再会できないかな」と目論んでいることさえ見透かして。



 だが、やっぱりそれは俺の考えすぎに過ぎず……。



「年頃の男が年頃の女を匿う理由。そんなの一つ」



 常識ですよと断言するかのように彼女は。



「セックス」



 と、ショッピングモールと言う公的機関のど真ん中で愛を叫んだ。


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